壁を作らずに音漏れを防ぐ「サウンドマスキング」とは?吸音・遮音との違いとオフィスの最適な導入法

近年、働き方の多様化に伴いWeb会議の増加などで「周囲の話し声が気になって集中できない」「会議の声や内容が漏れていないか不安」といったオフィスの音問題に悩む会社が増えています。

従来の防音対策といえば、壁を立てる間仕切り工事(遮音)や吸音パネルの設置が中心でした。しかし、多額の工事費用やレイアウト変更への制限、賃貸オフィスにおける原状回復負担などの問題も出てきます。そこで、大掛かりな建築工事を行うことなく音問題を解決する手法として注目を集めているのが「サウンドマスキング」です。

本記事では、サウンドマスキングの基本的な仕組みから「遮音」「吸音」との違い、導入メリット、ショールーム兼オフィス「THE MUSEUM」で実施したAI音声認識による独自検証データ、さらには実際のオフィス導入事例までを分かりやすく解説します。

目次

サウンドマスキングとは?会話漏れを防ぐ仕組みと基礎知識

サウンドマスキングとは、あらかじめ設定された特定の背景音(マスキング音)をスピーカーから流すことで、周囲の会話音や生活音を聞き取りにくくする音響技術です。まずはその原理と基礎知識を押さえておきましょう。

音で音をカモフラージュする「マスキング効果」

人間の耳は、複数の音を同時に聞いたとき、「周波数が近く、音圧(音量)が大きい音」に意識が引き寄せられ、もう一方の音が認識しにくくなるという特性を持っています。これを「マスキング効果」と呼びます。

身近な例を挙げると、カフェのざわめきや換気扇のファンの音、波の音、雨の音などが挙げられます。こうした背景音が適度に存在している空間では、すぐ近くの席の人が話していても、その内容が気にならなくなったり、何を話しているのかが判別できなくなったりした経験があるでしょう。サウンドマスキングは、この人間の耳の仕組みを意図的にオフィス空間へ応用した仕組みです。

音を消すのではなく「言葉の意味を聞き取れなくする」

サウンドマスキングは、音をゼロにするのではなく、同等の周波数帯をもつ音を重ねることで言葉の意味を聴き取れなくする点が特徴です。

人間の脳は、母国語や聞き取れる単語を耳にすると、無意識のうちにその言語の意味を処理・解読しようとします。音響学ではこれを「了解度(言葉の意味がどれだけ聞き取れるか)」と表現しますが、オフィスではそれが集中を妨げることもあります。

サウンドマスキングは人の話し声の周波数帯(主に250Hz〜4kHz付近)に合致する特殊な音を空間全体に重ねることで、会話の輪郭をぼかし、「了解度」を下げることを目的としています。

マスキング音の3つの種類(ノイズ音/自然環境音/情報マスキング音)

サウンドマスキングで用いられる背景音には、主に以下の3つのタイプがあります。

ノイズ音(ピンクノイズ/ホワイトノイズなど)

空調音やファンの回転音に似た「サー」「ザー」というノイズです。オフィスの執務室全体に均一に放射しやすく順応しやすいため、一般的によく用いられます。

自然環境音(川のせせらぎ/波の音/森の鳥のさえずりなど)

自然界の音を模したサウンドです。音漏れをカモフラージュするだけでなく、人の副交感神経を優位にしてリフレッシュ効果やリラックス効果をもたらすというメリットもあります。ラウンジやリフレッシュエリアなどに適しています。

情報マスキング音(スピーチマスキング音)

人間の話し声から抽出した子音・母音の断片や音階を特殊加工し、音楽や環境音と合成した最先端のマスキング音です。通常のノイズ音よりも小さな音量で効果があるため、音による圧迫感を与えにくい点がメリットです。会議室で機密事項を扱うときや役員室、オープンスタイルの相談ブースなどに適しています。

現代のオフィスでサウンドマスキングが必要とされる理由

柔軟な働き方の推進に伴い、オフィスに求められる機能は変わってきています。サウンドマスキングもその1つです。理由を見てみましょう。

Web会議の急増による声漏れ

現代は、社内外との打ち合わせを対面ではなくオンライン会議で行うことも多くなりました。その結果、従来の会議室の数だけでは足りず、自席やオープンなミーティングスペースで日常的にWeb会議を行うことも珍しくありません。

Web会議の音声で周囲の人の集中を妨げることも問題ですが、周囲への影響を気にするあまり積極的な発言ができず会議を行う人自身にも支障が出る可能性があります。

フリーアドレス・ABWの導入に伴う「集中スペース」不足

多くの企業が社内コミュニケーションの活性化を狙い、固定席を廃止してフリーアドレスやABWを取り入れています。しかし、オープンスペースは開放的で偶発的な対話を生む一方で、音を遮る壁が存在しないため、以下のような問題が生じがちです。

  • 誰かの雑談や電話の声が四方に広がり、周囲の集中を削いでしまう
  • 重要事項を扱うプロジェクトや個別面談など、周囲に聞かれてはいけない内容を話せない
  • 集中ブースを設置しても、予約が埋まっており執務エリアで作業せざるを得ない

このように、オープンで積極的なコミュニケーションが生まれる場とプライバシーや集中を守る場の確保を両立させたい場合、物理的な壁を作らずに快適な環境をつくれるサウンドマスキングはとても有効です。

「遮音」「吸音」との違いは?比較表で解説

オフィスの音問題を解決したい時、サウンドマスキングとよく混同されるのが「遮音」や「吸音」です。これらの違いを押さえておきましょう。

遮音(音を遮る)吸音(音の反響を抑える)サウンドマスキング(音を紛らわせる)
仕組み質量のある硬い材料で音波を反射・遮断する多孔質の素材に音を取り込み、熱エネルギーに変換して減衰させる周波数の一致する背景音を流し、会話の了解度を低下させる
主な目的空間の外への音漏れ、および外からの音の侵入を防ぐ室内での音の反響(残響・エコー)を抑え、音の明瞭度を高める会話の内容を周囲に聞き取れなくして、集中力低下や情報漏洩を防ぐ
主な部材・設備石膏ボード、遮音シート、コンクリート、密閉サッシ吸音パネル、ファブリックパーテーション、吸音天井板、カーペットマスキングスピーカー、専用音源コントローラー、アンプ
工事の規模大規模(壁・天井の密閉間仕切り建築工事、床下工事など)小〜中規模(既存の壁や天井へのパネル貼り付け、家具の配置)小規模(天井裏へのスピーカー吊り込み、または置き型機器の配線)
導入コスト高い中程度比較的安価
レイアウトの柔軟性低い高い非常に高い

遮音(音を遮る)

遮音は、コンクリートや石膏ボード、遮音シートといった密度の高い素材で空間を密閉し、音波を反射・遮断する方法を指します。会議室や役員室などの完全な密室を作りたい時などに選ばれることもありますが、天井裏まで隙間なく壁を立ち上げるなどの大がかりな建築工事が必要です。ビルオーナーとの調整はもちろん、空調や消防設備の増設工事が必要となり、導入コストは高くなるというデメリットもあります。将来的にオフィスリニューアルを考える際にも、柔軟性を大きく損なう可能性があるため注意が必要です。

吸音(音の反響を抑える)

グラスウールやフェルト、ウレタンなどの微細な穴を多数持つ多孔質材料に音波を進入させ、摩擦によって音の反射を減少させる方法です。Web会議ブース内の反響音を抑えてマイクの聞き取りやすさを向上させたり、広いフロアでのざわめきの残響を短くしたりすることができます。ただし、吸音材単体では壁を突き抜けて隣の部屋に漏れる音を物理的に遮断することはできません。

サウンドマスキング(音を紛らわせる)

建物の構造自体には手を加えず、スピーカーから背景音を放射することで広範囲の会話音をカモフラージュする技術です。壁を作らないため、オフィスの開放感や採光、通気性を損ないません。また、天井裏にスピーカーを仕込むか、卓上・床置きのコンパクトな機器を設置するだけで済むため、賃貸のオフィスであっても短工期で導入できます。退去時にも高額な原状回復費用が発生せず、レイアウト変更時にも柔軟に対応できる点も魅力です。

サウンドマスキングを導入する4つのメリット

オフィスにサウンドマスキングを導入するメリットを4つご紹介します。

情報漏洩リスクの低減

オフィス内で交わされる会話のなかには、人事評価や採用面談、財務情報、新規事業の戦略、顧客の機密データなど、秘匿性の高いものもあります。

サウンドマスキングが導入されている空間では、仮に会話の音自体が遠くに届いていたとしても、母音や子音の区別がつかなくなり、第三者が具体的な言葉として認識できなくなります。これにより、意図しない社内での会話漏れや、受付・来客エリアへの情報流出リスクを低減できます。

集中力低下・思考中断を防ぐ

人間の注意機能は、意味の通じる言葉に対して敏感に反応します。静かなオフィスで他者の電話対応や相談の声が耳に入ると、本人の意思に反して作業中の思考は中断され、元の集中状態に戻るまでに時間を要することもあるでしょう。

サウンドマスキングによって、周囲の声がただのざわめきへと変換されると、集中状態を保ちやすくなり音へのストレスも少なくなります。

発言することへのストレスを緩和する

音の問題は、話し手側の心理的なプレッシャーにもなります。「自分の声がフロア全体に筒抜けになっている気がする」「誰かに聞かれていると電話や発言がしづらい」という問題もあるでしょう。

サウンドマスキングが導入されると、自らの発言が周囲に丸聞こえになる不安も軽減されます。その結果、社員同士の気軽な相談やWeb会議での活発なコミュニケーションが促され、社員の積極性が増し新しいアイデアも生まれやすくなります。

低コストで導入しやすい

サウンドマスキングは、既存のオフィス空間の設備を壊すことなく後付けが可能です。初期費用を大幅に抑えられるだけでなく、賃貸オフィスの退去時における原状回復負担も最小限で済むため、移転・更新サイクルの早い成長企業にとっても取り入れやすいでしょう。

サウンドマスキング導入時の注意点

サウンドマスキングは、ただ機器を購入して音を鳴らせばよいというわけではありません。導入時には、以下のポイントに注意しましょう。

音量・音質の調整には専門家の技術が必要

マスキング音は、大きすぎると耳障りな騒音となり、不快感や頭痛、疲労などを引き起こします。逆に小さすぎると会話を覆い隠すことができず、その効果を実感しにくくなります。

サウンドマスキングは、オフィスにもともと発生している音を精密に測定した上で、人の会話の周波数帯に合わせて適切な音量・音質にチューニングする必要があり、これには専門的な知識が求められます。

スピーカーの配置設計で効果が変わる

サウンドマスキングは、空間内のどこにいてもムラなく均一に音が届いていなければ効果を発揮しません。特定の席の頭上だけ音が大きく、少し離れると急に聞こえなくなるといった「音溜まり」や「音の死角」が発生すると、違和感を与えてしまいます。

天井の高さや吸音率、オフィス什器のレイアウト、空調ダクトの配置などを考慮したうえで、専門的な判断のもとスピーカーの配置を行う必要があります。

完全な無音空間にはならない

サウンドマスキングは、あくまで「音を重ねて言葉を聞き取りにくくする」手法であり、音波そのものを打ち消すものではありません。したがって、ナレーションの録音室のような完全な静けさを求める場所には適していません。

【独自検証】サウンドマスキングの効果を「iPhoneの文字起こし」で比較!

実際にサウンドマスキングの効果を検証するために、ソーシャルインテリアの共創型ショールーム兼オフィス「THE MUSEUM」(東京・南青山)にて、スマートフォンの音声文字起こし機能を用いた独自の実証実験を行いました。

検証の背景と条件

弊社の”THE MUSEUM”にはサウンドマスキングが導入されています。

今回は、「スマートフォンの文字起こし機能(iPhoneのボイスメモ)が、サウンドマスキングによってどれだけ会話を拾えなくなるか」を数値で比較しました。

  • 実験場所:THE MUSEUM内の会議室と、ドアの外の廊下
  • 測定方法:会議室のドアを閉めた状態で、室内のスピーカーから会議原稿を普段の会議と同じくらいの声量で再生し、廊下に置いたiPhoneのボイスメモで録音・文字起こし
  • 読み上げ文章:予算や人事など「社外に漏れると困る内容」を含む約200字の会議原稿を2種類(予算の会議・採用の会議)
  • 評価方法:各原稿の重要キーワード20語(計40語)のうち、正しく文字起こしされた数をカウント

実際に読み上げた原稿はこちら

原稿A(予算の会議)

それでは来期の予算について共有します。営業部の広告費は今期より15%削減し、1,200万円とする方向で調整しています。また、4月の組織変更で、第二営業課の田中課長が企画部へ異動する予定です。新規取引先の北斗商事とは、3月末までに契約条件を詰める必要があります。価格は現行案の8割程度まで下げられるかがポイントです。この件は正式発表まで社外秘でお願いします。

キーワード(20語):来期/予算/営業部/広告費/15%/削減/1,200万円/4月/組織変更/第二営業課/田中課長/企画部/異動/北斗商事/3月末/契約条件/価格/8割/正式発表/社外秘

原稿B(採用の会議)

今月の採用状況を報告します。中途採用は応募が42名あり、そのうち5名が最終面接に進んでいます。開発部の佐藤さんが来月で退職するため、後任の募集を急ぎます。年収は600万円から700万円の範囲で提示する予定です。また、秋の新商品の発売日は11月20日に決まりました。取引先の青葉物流には、来週の水曜日に正式に連絡します。ここまでの内容は、まだ部長会議の承認前なので口外しないでください。

キーワード(20語):採用/中途採用/42名/5名/最終面接/開発部/佐藤さん/退職/後任/年収/600万円/700万円/新商品/発売日/11月20日/青葉物流/来週の水曜日/部長会議/承認/口外しない

検証結果

マスキングのON/OFFによって、文字起こし結果に以下のような差が生じました。聞き取れたキーワードは73%から28%に減少しています。

条件予算の会議採用の会議合計
サウンドマスキングOFF17/20語12/20語29/40語(73%)
サウンドマスキングON8/20語3/20語11/40語(28%)

OFFの状態では、会話の大部分がそのまま文字になりました。

一方ONにすると、文章が途切れ途切れになり、意味の通らない言葉が目立つようになります。

実際の会話マスキングOFFマスキングON
営業部の広告費は(中略)1,200万円とする方向で営業部の広告費は(中略)1200万円とする方向で英語が(中略)生脈内をする方法で
第二営業課の田中課長が企画部へ異動する予定です第二営業化にとなった課長の比較移動する予定です第入業とかプを解してる予定です
開発部の佐藤さんが来月で退職するため、後任の募集を急ぎます開発部の佐藤さんが来月で退職するため、公人の募集を急ぎます部のさんが来るために募集に続けます
新商品の発売日は11月20日に決まりました新商品の発売日は11月20日に加わりました新商品のは11月2日にとなりました
取引先の青葉物流には引先の青葉物流はの大葉物流には

注目したいのは、ONにしたことで金額・部署名・人名・取引先名がほぼ聞き取れなくなった点です。「誰が」「どの会社と」「いくらで」といった情報が抜け落ちるため、会話の内容を第三者が把握するのは難しくなります。

さらに、ONの状態では「11月20日」が「11月2日」、「青葉物流」が「大葉物流」になるなど、内容が間違った形で認識されるケースも見られました。仮に会話の一部が耳に入ったとしても、正確な情報としては伝わりにくいことが分かります。

実際に聞いてみた感想

検証に立ち会った担当者からも、「ONにすると、声がしていることは分かっても話の中身までは入ってこない」と効果を実感する声がありました。

さらに印象的だったのが、隣の会議室から聞こえてくる声です。

サウンドマスキングをONにすると、隣の部屋の会話も内容が分かりにくくなりました。社内の会議室だけでなく、来客を迎える応接スペースに導入すれば、隣で行われている社内の打ち合わせがお客様の耳に入るのを防ぎ、お客様の会話も周囲に漏れにくくなるなど、双方にとって安心できる空間づくりに役立ちそうです。

結論

サウンドマスキングは、会話の音そのものを消すのではなく、「何を話しているか分からない」状態をつくる仕組みです。今回の簡易検証では、ONにするだけで重要なキーワードの認識率が73%から28%と半分以下になり、特に金額や人名、取引先名など機密性の高い情報が漏れにくくなることが確認できました。

サウンドマスキングを導入し快適なオフィス環境を実現した事例

実際にサウンドマスキングを取り入れ、オフィスの課題を解決した事例をご紹介します。

静けさと活発な議論が両立するオフィス|株式会社アルマード様

本社オフィスの移転に伴い、ソーシャルインテリアがプロジェクトマネジメント、空間デザイン、インテリアコーディネートまでをワンストップで支援した事例です。

新オフィスではオープンな執務エリアとリフレッシュエリアを柔軟につなぐ開放的なレイアウトを採用しています。その一方で、懸念された音漏れや集中阻害の対策としてサウンドマスキングシステムを導入しました。

サウンドマスキング導入により、特に会議室では従来のオフィスのような音漏れに対するストレスがなくなり、より集中した議論が交わせるようになっています。また、執務エリアにおいても、コールセンターの配置を工夫することで全体的に静かな環境が保てています。

見えない音の壁で開放感あるワークプレイスへ|フォースタートアップス株式会社

本社オフィス移転にあたり先進的なオフィス空間を構築、旧オフィスで課題の1つにあがっていた音の問題も解決した事例です。なお、本オフィス空間は国内外から高い評価を受けており、2025年度グッドデザイン賞をはじめ複数の受賞歴があります。

古代ローマのバシリカをモチーフとした円形ステージを含む壮大なオープンスペースは、特に多くのゲストの印象に残るエリアです。

多数の社員が利用する執務スペースは、仕切りのない開放的な空間ではありますが、サウンドマスキングの導入によって業務の妨げになるような会話音を低減できています。また、会議室の音は外に聞こえにくくなり、その効果を実感されています。

オフィスの音問題は「建築工事」以外の方法で解決する時代へ

かつてのオフィスの音問題は、高額な費用を支払って壁を新設する方法が一般的でした。しかし現代は、壁を立てずに音問題に対処するサウンドマスキングの導入が主流になってきています。

サウンドマスキングの効果は、文章だけでは判断しにくいかもしれません。実際に体験してみたい方は、ぜひソーシャルインテリアの共創型ショールーム兼オフィス「THE MUSEUM」でご体感ください。本記事でご紹介した実証実験の環境や、デザイン家具・内装と調和した最先端のサウンドシステムをスタッフの解説付きで見学できる「オフィスツアー」を随時受け付けています。

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