近年、多様な働き方の普及に伴い、改めて注目を集めているのが「クリアデスク」です。
クリアデスクと聞くと、単に机の上を綺麗に片付けるだけの美化運動と捉えられるかもしれません。しかし、その本質は全く異なります。クリアデスクの本当の目的は、企業の重要資産である情報セキュリティの確保と無駄を排除した業務生産性の向上にあります。
社内外を問わず人の出入りや座席の流動性が高まった現代のオフィスにおいて、デスク上の無防備な書類やPC画面は、重大なセキュリティ上の問題に発展する引き金になりかねません。
本記事では、クリアデスクの基本的な概念から「覗き見(ショルダーハッキング)」のリスクと対策、導入に向けた具体的なステップ、そして実際にクリアデスクと柔軟な働き方を両立させた先進企業5社の事例までを網羅して詳しく解説します。
目次
クリアデスクの基本と「クリアスクリーン」との関係とは

まずは、クリアデスクの意味と、似た言葉として知られている「クリアスクリーン」との関係について解説します。
クリアデスクの定義と目的
クリアデスクとは、離席時や終業・退社時に、デスクの上に紙の書類や名刺、ノート、PC、記録媒体(USBメモリ、外付けHDDなど)、個人の私物を放置せず、施錠可能なキャビネットやパーソナルロッカーにすべて収納・保管するセキュリティ方針のことを指します。
これは単なる社内マナーではなく、情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格である「ISO/IEC 27001(ISMS)」の管理策にも明記されている、国際標準のセキュリティ対策です。
参照 日本産業標準調査会
デスク上に書類を置いたままにしておくと、悪意を持った第三者だけでなく、悪気のない通行人や清掃スタッフなど、不特定多数の目に機密情報が触れてしまうリスクが生じます。物理的な盗難・紛失や不正な持ち出しに限らず、情報漏洩を未然に防ぐための基本的で重要なセキュリティ対策といえます。
クリアスクリーンとの関係
クリアデスクを導入する際、必ずセットで運用されるのが「クリアスクリーン」です。クリアスクリーンとは、PCやタブレットなどの端末から短時間でも離れる際に、画面をロックし、作業中の画面や機密情報を第三者に見られないようにすることを指します。
ほんの数分の間でも、空席のPC画面に表示された顧客情報や社内チャット、作成中の契約書が周囲に漏れるリスクは高いです。そのため、離席時の手動ロックの徹底はもちろん、一定時間操作がない場合に自動でスクリーンセーバーや画面ロックが作動するシステム設定を全社的に義務付けるルール化が不可欠です。
主に紙媒体から秘密を守るクリアデスクと、デジタル画面を守るクリアスクリーンは、両方が同時に行われるべきものであり、これが徹底されることでオフィスのセキュリティは強固なものに近づきます。
フリーアドレスやABWの成功にも不可欠
クリアデスクは、フリーアドレスやABWといった柔軟な働き方を成功させるためにも不可欠な要素です。もしクリアデスクのルールが徹底されていなければ、特定の社員がデスク上に私物や資料を置きっぱなしにしてしまい、事実上の「固定席化(私物化)」が発生します。
誰でも自由に好きな席を選べるはずのフリーアドレスにおいて、席の私物化は運用失敗の典型的な原因の1つです。席を移動するたびにデスクを綺麗に戻すルールがあってこそ、社員同士はスムーズに席を交代でき、偶発的なコミュニケーションの創出やレイアウトの有効活用といった、フリーアドレス本来のメリットを最大化することができます。
なぜクリアデスクが必要なのか?導入する3つのメリット

クリアデスクを導入・定着させると、以下のようなメリットがあります。
情報セキュリティ・コンプライアンスの強化につながる
セキュリティ対策の甘さは、企業の信頼を失墜させる重大な経営リスクです。クリアデスクを徹底することで、顧客情報や人事評価シート、未公開の開発データ、取引先との契約書などの物理的な盗難、紛失、無断コピーを防ぐことができます。
執務室は、一見クローズドな空間に見えても、来客や委託業者、清掃スタッフなど、日常的に社外の人間が出入りする場所です。また、社員であっても、情報の内容によっては閲覧権限の有無が生じるでしょう。
機密書類が露出することは内部不正やコンプライアンス違反のリスクにつながります。「見せない・持ち出させない・放置しない」環境を作り上げることが肝心です。
探し物がなくなり業務効率があがる
机の上が常に片付いている状態を維持することで、書類や備品を探す無駄な時間を削減できます。これは些細な問題にすぎないと思われるかもしれませんが、業務時間内で探し物に費やす時間は意外と多いとされており、必要なデータや資料をすぐに取り出せる仕組みづくりは生産性にも影響する課題です。
また、認知科学の観点からも、作業視野の中に余計な書類や私物などが入らない環境は、脳の疲労を抑え、目の前のタスクへの集中力を高める効果があります。つまり、クリアデスクは業務スピードの向上や作業ミスの低減、残業削減といったメリットももたらします。
参照 Fast Company「7 Ways Clutter Is Ruining Your Life」
美観向上による企業ブランディング・社員の意識改革につながる
散乱したオフィスと、整理整頓が行き届いた清潔感のあるオフィスとでは、社内外に与える印象が大きく異なります。社外の人が執務エリアを目にした際、整然としている様子であれば「規律が守られている」「信頼できる」といった印象を受けるでしょう。
また、社員にとっても、美しく洗練された環境で働くことは仕事への誇りやモチベーションの向上につながります。日頃から身の回りを整える習慣が定着することで、情報管理やコンプライアンスに対する当事者意識が根付いていく点も大きなメリットです。
覗き見(ショルダーハッキング)対策の重要性

オフィスのセキュリティリスクの中で、近年特に重要視されているのが「覗き見」、いわゆる「ショルダーハッキング」への対策です。
情報漏洩はサイバー攻撃だけではない
情報漏洩と聞くと、マルウェア感染や不正アクセスといったサイバー攻撃を連想しがちですが、実際はそれだけではありません。警察庁が発表する不正アクセス行為の発生状況データによると、パスワードの入手手口として「利用権者からの聞き出し・覗き見」や「設定・管理の甘さにつけ込んだ入手」が一定の割合を占めています。
PCの側面にログインIDやパスワードを記載した付箋を貼る行為や、離席時にブラウザや業務システムを開いたままにしておく行為は、悪意を持つ人に狙われます。高度なハッキング技術を用いなくても、ただ画面やメモを見るだけで重要情報が奪われてしまう危険性もあるのです。
参照 不正アクセス行為の発生状況及び制御機能に関する技術の研究開発の状況
覗き見による被害の実態
オフィスにおける覗き見の脅威は、各種の実証実験でも証明されています。大手資材メーカーの3M社などが実施したビジュアルハッキング実験(疑似的な侵入者を用いた実験)では、侵入者がオフィスに立ち入った際、約9割の試行で機密情報の視覚的取得に成功したと報告されています。
この実験では、通路を通り抜けるわずかな時間や無人のデスクに立ち止まったわずか数分間で、顧客データ、財務情報、従業員の認証情報などが簡単に盗み取られました。しかも、オフィス内の従業員がその不審な視線や行動に気づいて制止できたケースは非常に少なかったことも明らかとなりました。
参照 3M Global Visual Hacking Experiment
クリアデスクとクリアスクリーンが物理的なセキュリティ攻撃を防ぐ
こうした覗き見のリスクを低減するのが、クリアデスクとクリアスクリーン、そして座席レイアウトの工夫です。
まず、パスワードや機密メモの付箋貼りを社内規定で全面的に禁止し、見つけ次第指導するルールを徹底します。そして、数歩席を離れるだけでも画面ロックを行うクリアスクリーンを習慣化します。さらに、来客動線やメイン通路からPCの画面が直接見えないようにデスクの向きを設計したり、壁側を背にした配置や目隠しパネル、覗き見防止フィルターを採用したりすることで、覗き見による情報漏洩リスクを抑えることができます。
クリアデスクを定着させるオフィス環境の整備とルールの具体策

クリアデスクを定着させるには、自然と片付けたくなるオフィス環境の整備や明確なルール設計が不可欠です。
オフィス環境を整備する際のポイント
自然と片づけたくなるような環境をつくるには、物を収納する場所と容易に持ち運べる仕組みづくりが重要です。具体的に見てみましょう。
パーソナルロッカーの設置
社員一人ひとりに施錠可能な専用ロッカーを割り当て、終業時にはすべての私物やPCを収納できるようにします。
モバイルバッグ・インナーバッグの導入
PCや充電器、筆記用具などをまとめて持ち運べる社内用トートバッグやボックスを配布することで、移動と片付けの手間を軽減します。
配線の集約と埋め込み式コンセント
電源コードやLANケーブルを整理するため、デスク天板への埋め込み式コンセントやワイヤリングレールを導入します。
集中ブース・クローズドブースの設置
機密書類を広げて行う業務や重要なオンライン商談では、個室ブースで覗き見を防止するのがおすすめです。
ペーパーレス環境の整備
業務が紙に依存しているままだと、クリアデスクの導入を妨げます。以下の取り組みを実施して、ペーパーレス化も同時に推進しましょう。
- クラウドストレージ・電子契約ツールの導入:BoxやGoogle Workspace、電子契約、ワークフローシステムを整備し、印刷しなくても業務が完結する環境を構築します。
- デュアルモニターの設置:紙を印刷して並べながら作業する習慣をやめるために、デスクに外部モニターを設置します。画面を2画面化することで、画面上での資料参照や比較作業がスムーズになります。
分かりやすい運用ルールの策定
クリアデスクに関するルールが曖昧だと、社員一人ひとりの判断に任せることとなり、「これくらいは置いておいてもいいだろう」と徐々に元の状態へ逆戻りする可能性があります。誰もが簡単に理解できるシンプルなルールを策定しましょう。
- 退社時の完全クリア
- 離席時の行動基準
- 備品の定位置管理
例えば、退社時にはデスクに何も残さない、30分以上席を離れる場合は書類を裏返しにして引き出しへ入れる、1分でも離れる場合はPCをロックするなど、時間軸に応じた行動基準を設けるのがおすすめです。
また、文房具などの共用備品は個人で抱え込まず、共用部に収納して使い終わったら必ず元の位置へ戻す運用にすると良いでしょう。
綺麗に使いたくなる環境へ工夫する
クリアデスクの定着には、社員のモチベーションを維持することも大切です。デザイン性が高くおしゃれなオフィス環境であれば、社員自身が「この美しい空間を汚したくない」「綺麗に使いたい」という美意識を持つようになり、強制ではなく自発的に実施したくなるでしょう。
また、終業の5〜10分前に社内アナウンスや音楽を流し、全社一斉に片付けを行う時間を設けるのも効果的です。机の上をリセットする時間を日常の業務ルーティンに組み込むことで、片付けが当たり前の企業文化へと発展させることができます。
クリアデスクと柔軟な働き方を実現したオフィス事例5選
ここからは、オフィス環境の刷新と工夫によってクリアデスクを定着させ、成功した事例を5つご紹介します。
明確なゾーニングで安心して集中できる環境も確保|キンコーズ・ジャパン株式会社

移転に伴い、社内外のつながりを強め多様な働き方が実現できるオフィスを構築した事例です。フリーアドレス制を導入し、日常的な会話や学びあいが生まれるオープンスペースが充実しています。

誰でも立ち寄れる開放的なエリアと、セキュリティに配慮した業務スペースを明確に分離している点も特徴です。これにより、社員はオンオフをスムーズに切り替え、安心して仕事に集中できます。
安心して仕事ができるレイアウトと家具導入|住商アドミサービス株式会社

人事の受託業務を行うエリアのレイアウト変更を行った事例です。出社率の増加や事業拡大、柔軟な働き方の導入を視野に入れた変更でもあり、社員が安心して業務に取り組めることに重点を置きました。

人事の受託業務という、高度な秘密保持が求められる職場ということもあり、覗き見を防止できる個人ブースもフロア内に設けられています。家具のサブスクリプションサービスを活用したことで、社員それぞれがより「綺麗に使おう」と意識しやすくなり、クリアデスクの定着にも役立ちました。
オフィスらしいふるまいが自然と行える空間|フォースタートアップス株式会社

オフィス移転プロジェクトで、急成長する会社のニーズに合う空間を実現した事例です。キャパシティ不足や会議・面談の増加、音の問題など、もともと仕切りのないオープン型の執務室ではありましたが解決すべき課題はいくつかありました。

執務エリアは壁や仕切りを設けず、エリアの4分の3は埋め込み式コンセントを採用しています。これにより、デスク回りがすっきりとし、今後のレイアウト変更も容易に行えます。「KEEP:”CLEAN, SMART, PRIDE”」 というスローガンのとおり、社員一人ひとりがオフィスを清潔に、オフィスにふさわしいふるまいができるよう、意識を高めるきっかけにもなりました。
ゲストと同じ空間でもセキュリティが守られるレイアウト|デジタルグリッド株式会社

増床に伴い、会議室不足や動線の問題を解決した事例です。従来は、ゲストと従業員の出入口が同じで、ゲストに執務室の様子が見えすぎる点が課題でもありました。今回の拡張プロジェクトにより、ゲストと社員の出入り口や動線を分離することができ、ゲストからは執務中の画面や手元は見えない設計となっています。

オフィス全体のレイアウトそのものは見通しがよく、自然なゾーニングにより違和感なく統一感もあります。執務スペースは家具の配置も工夫し、開放感があるため自然ときれいな状態を維持したくなる環境です。
株式会社Sun Asterisk

会社の急成長に伴う手狭さやコミュニケーションの課題を解消するために、集約移転を実施した事例です。アクセスの良い広い空間に、オープンスペースや集中ブース、フリーアドレスで仕事が行える環境を整備し、柔軟な働き方に対応できるオフィスを構築しています。

自社の想いや世界観が社内外に伝わり発信できるようなデザインも随所にあり、自然と高い美観を保ちやすくなるオフィスです。拠点がひとつとなり同じ空間で仕事をする社員が増えても、クリアデスクの習慣が維持されています。
クリアデスクは企業の戦略的な取り組みにつながる
クリアデスクは、単なる机の上の片付けではありません。情報の漏洩や覗き見というセキュリティ脅威から会社を守り、無駄な探し物を排除して従業員の生産性を最大化し、さらには企業の信頼性を高めるための取り組みです。
多様な働き方が広がる今こそ、自社のオフィス環境を見直してみてはいかがでしょうか。ソーシャルインテリアには、オフィス構築支援によってさまざまな会社の課題に対処してきた実績があります。
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