オフィスの最新動向をチェック!オルガテック2024レポート

2022年から開催されているオルガテック東京は、オフィス環境を彩る家具やマテリアル、最先端テクノロジーまで、幅広いジャンルの最新トレンドを一堂に集めたイベントです。 建築家、デザイナー、デベロッパーなど、オフィス空間に関わる専門家にとって欠かせない展示会であり、革新的な素材や技術を取り入れた製品を網羅的に見ることができます。まさに、未来のオフィス像を探る絶好の機会といえるでしょう。

今回は、オフィス構築の専門であるソーシャルインテリアがオルガテック東京で見つけた、これからのオフィスづくりで参考になるプレゼンテーションや製品をご紹介します。

2024年のオフィス家具業界のトレンドとは?

CIRCULAR MIRAIの展示ブース

オルガテック東京は、ドイツ・ケルンで70年以上開催されている世界最大規模のオフィス専門の展示会”ケルン国際オフィス家具専門見本市”の関連イベント。

第3回目となるオルガテック東京2024は5⽉29⽇から31⽇まで東京ビックサイトで開催され、昨年を大幅に上回る160社以上が出展し、3日間で40,000人以上が来場しました。

主催のケルンメッセ代表・高木誠氏に今年のオフィス環境のトレンドについて伺ったところ、「世界的な傾向として、目的別の多機能なオフィスが更に進んでいく」とのことでした。出社の意義がより重要視され、クリエイティビティを引き出すようなオフィスへ変化していくことが求められる時代が来るのでは、と予測されています。

さらに「健康志向の拡大から、オフィスでも心身ともにウェルビーイングを重視した製品や空間の導入や、AIを駆使した時間と空間を超えるクオリティの高いコネクティビティ技術の登場と普及が期待される」と高木氏は語ります。近未来のオフィスはより柔軟で、ダイナミックな働き方を実現する場となる可能性を秘めているようです。

デザインの力でワークスタイルの変革を促進

カリモク家具のグランプリ受賞

オルガテック2024は、昨年に引き続き「SHIFT DESIGN」をコンセプトに開催されました。ケルンメッセ高木氏は「”デザイン”に対する多様な解釈を広く受け入れ、それぞれのデザイン哲学を自由に昇華できる大きな器を提供したい」と語っており、ワークスタイルに関する新たなアイデアや価値観の提案が多く見られました。

そして、コンセプチュアルでデザインや技術が優れたブースを表彰する「ORGATEC TOKYO Awards」も同時開催され、デザインやインテリアの専門家たちが選考委員を務めたアワードでは、「カリモク家具」がグランプリを受賞。

オフィス家具の専門ではないメーカーが受賞するのは初めてだそうで、選考委員の「デザインの力でオフィス環境を良い方向に変えていこう」というメッセージを体現する結果になりました。

製品展示からストーリーや世界観の表現が主軸に

プラス展示ブース

今まで、大規模な展示会というと新作製品のお披露目の場として使われてきましたが、今年のオルガテックは企業のメッセージを伝える場へとシフトしてきているように感じます。

主催者の「ワークスタイルに関する、新たなアイデアや価値観を生み出す文化を育みたい」という言葉の通り、製品に留まらない情報発信が各ブースで見られました。

プレゼンテーションの大きな傾向としては以下の2点です。

・サステナビリティや社会的責任に対する発表
・集中と交流の機能をオフィスに取り入れるアイデアの提案

例えば前述のカリモク家具のブースでは、企業理念である森との共生を空間全体で表現していたり、KOKUYOは「はたらく」のあり方を探す「旅」をコンセプトに、ブース全体を駅と3本の列車に模していたりと、コンセプトの表現に重きを置いていました。

また、プラスは「my イゴコチメイキング」を主題に、既存商品を用いて体験型のプレゼンテーションでブースを構成。

吸音パネルで囲まれた空間では、反響音が低減された音のストレスが少ない空間の体験ができました。
さらに、可動式のスクリーン「HUTTE II」によって開かれた空間と集中できる空間の境界線を知ることができるなど、働く環境の体感値を高める仕掛けがふんだんに設けられていました。

これらのプレゼンテーションで、交流を促すオープンなスペースと集中を手に入れられるクローズなスペースの対比を通して、それぞれの魅力を体感することができました。自分たちの働く環境について改めて考えさせられた来場者も多かったのではないでしょうか。

働くことが魅力的に感じるオフィスは来たくなる

ITOKI Poul Henningsen Furniture 展示コーナー
提供:ITOKI
Photo by 神宮巨樹(OOKI JINGU)

かつて日本のオフィスは「最も効率的に作業をする場所」とされ、出勤が必ずしもポジティブなものではありませんでした。
しかし、コロナ禍を経てリモートワークやハイブリッド勤務が一般化した今、オフィスの価値観はガラリと変わりました。

現代のオフィスは、単に作業をする場所ではなく、働く人たちの交流が刺激となって、新しい発想が得られるような、よりクリエイティビティが発揮される場所として捉えられています。

昨今では、創造性のある価値を求めて企業や経営層が従業員をオフィスへ呼び戻す「オフィス回帰」が重要なキーワードになっています。

ここからは「働くことが魅力的に感じられる場所」をつくるためのヒントとなるアイデアを見ていきましょう。

集中とコミュニケーションを両立する空間

ITOKI ADDCELL Hexa
提供:ITOKI
Photo by 神宮巨樹(OOKI JINGU)

暮らしの空間に作業を持ち込む在宅ワークでは、生活音などのノイズで集中できなかったり、フォーマルな会議に家族の存在が気になり発言しにくくなったりと、自宅ならではの課題を感じる人も少なくありません。

“自宅でも作業はできるけれど、オフィスの方がより集中しやすい。”
”オンライン会議よりも、前向きな気持ちでミーティングに参加できる。”
そんなオフィス空間であれば、働く人たちも出社にメリットを感じられるでしょう。

オルガテックの各展示では、在宅ワークよりもオフィスの方がより働きやすいと感じられるようなアイデアがいくつか見られました。

まずは集中するための個室ブースに新しい価値観をもたらした、ITOKIのクローズドブース「ADDCELL Hexa(アドセルヘキサ)※2024年秋以降発売予定」です。

これまでの個室ブースは集中したい作業や、音声漏れを防ぐための機密性を求めた少人数用のモデルが中心で、多人数での会議を想定したものは多くありませんでした。

アドセルヘキサは六角形の個室で最大6名がミーティングを行うことができるため、チームで集中しながら双方向のコミュニケーションを図れる点が画期的です。

逆にオフィスを多様な人々にとってオープンな場であることを示す例も見られました。

KOKUYO DAYS OFFICE
提供:KOKUYO

KOKUYOのブース内では、 “色んな個性が集まる、混ざり合う。”がコンセプトの「DAYS OFFICE」を提案していました。カフェカウンターとダイナースタイルのラウンドソファをレイアウトすることで、会議室のデスクで面と向かう1on1よりも、よりフレンドリーでリラックスした雰囲気の中でコミュニケーションをとることができます。

交流を促すためのオープンスペースはより凝った趣向になり、業務時間内はキオスクとして、業務時間外やイベント時にはバルとして利用するなど、「働く」の範囲を超えるような空間へと進化しています。

このほかに、列車を模した展示ブースで「Any way」「SAIBI」のブランドを紹介し、単に家具提案だけではなく、これから企業が目指す働き方に寄り添うワークスタイルを提案していました。

ワクワクできる高揚感のある空間作り

未来の働き方を提案するワークプレイスのモックアップ

オカムラがオフィスの過去から現在、そして未来を描く「WorkStyles Journey +」と題された展示は、日本のオフィス家具の初期モデルが印象的。グレーのワントーンで構成されたシンプルなデスクとチェアは懐かしくもあり、かつてのオフィスで働くイメージの原風景を感じさせました。

しかし、足を進めると、途端に近未来的な空間が広がります。超集中と交流をテーマに、流線型のパネルと一体型となった個人ブースのモックアップがCG動画と共に展示され、未来のオフィスのイメージが視界に飛び込んできます。

訪れた人々に「こんな素敵なオフィスだったら、ぜひここで働きたい!」と思わせるような、期待が高まる未来像を提示していました。

隣の人とのちょうどいい距離感を測る装置

また、今から実践できる「ワクワクを作り出すオフィスのアイデア」として参考にしたいのがプラスのブースです。

プラスではブースの中を3つに分けて、テーマに沿った製品の使い方を提案。

五感を刺激するような体験を通して、オフィスが人の心を動かすことができる場所であることを示していました。

吸音パネルコーナー: 反響音が低減された空間を体感することで、「快適な音環境なら集中しやすい」と実感できる空間を実現。

社内カフェ: 「1分間留まりたくなるアイディア」を募るワークショップを開催し、従業員の興味関心を引き出す施策を参加者が考える場を提供。

これらの体験を通して、オフィスは単なる作業場ではなく、創造性やモチベーションを高める場としての可能性を秘めていることが示唆されていました。

鮮やかな家具で気分の上がるオフィス

カリモク家具 展示ブース

かつてはシンプルでミニマルなデザインが求められていたオフィス家具ですが、ニューノーマル時代を迎えた現代では、働く人の気持ちを高揚させてくれるオフィス家具の需要がより高まっています。

コントラクトのインテリアといえば、モノトーンの落ち着いたカラーリングに個性を抑えた画一的なデザインが主流でしたが、今回のオルガテックではデザインはもとより、塗装やファブリックの色展開など、バリエーションがより豊かになっていると感じます。

カリモク家具では四季を感じるストーリーで、春の淡い色から夏のカラフルさ、秋の暖色系から冬の葉を落とした木々というように、製品の塗装でシーズンを表現していました。

また、デザイン会社DRAFTが手がけるプロダクトブランド「201˚(にひゃくいちど)」では、アイコニックな製品”COOM”の新色が登場。マテリアルリサイクルの技術を用いた飲料ペットボトル由来のファブリックを使用した新色は、働く人々が心地良く感じられる落ち着いた色合いが選ばれていました。

COOM新色
提供:DRAFT

近年は、ホームファニチャーのような居心地の良いカラーリングのプロダクトが増えています。これも、オフィス空間における居心地の重要性が高まっていることを表しているといえるでしょう。

エグゼクティブも納得のハイブランドが出現

ITOKI PROJECT J1890 NEW YORK
提供:ITOKI
Photo by 神宮巨樹(OOKI JINGU)

これまで、日本の経営層のワークスペースではインポートのハイエンドなプロダクトか、重厚感が重視される応接セットが採用されるケースがほとんどで、選択肢が限られた状態が続いていました。

そこに敢えて挑戦してきたITOKIの取り組みに注目したいと思います。

今回、ITOKIのブースでは2025年春にオフィシャルローンチ予定の米国NY発グローバル向け高級ブランド「PROJECT J1890 NEW YORK」やコペンハーゲン生まれのポール・ヘニングセンの家具コレクション「Poul Henningsen Furniture」、スペインの「esPattio」など、デザインにフォーカスしたブランドが発表されました。

日本のオフィス業界では長引くデフレの影響で「安くて良い製品」の需要が続いてきた背景もあり、なかなか本物思考のプレミアムなブランドが出てこなかった現状があります。

しかし、誰しもがシンプルで価格相応の製品で構成されたオフィスを求めているかというと、そうではないはずです。

上質な素材のデスクに向き合えば仕事の意欲が湧いてきますし、素晴らしい座り心地のチェアに座れば、これからの議論に立ち向かう気持ちも整うでしょう。

働くことに対して真摯に向き合うエグゼクティブ層にとって、ワークスペースのインテリアは非常に重要な要素です。

グローバルで活躍するエグゼクティブ層が、これならば使いたいと思えるようなクオリティにこだわったブランドが、日本から発信されています。

広がるサステナビリティの選択肢

CIRCULAR MIRAIの展示ブース

今年のオルガテックでは、主催者企画エリアとして「CIRCULAR MIRAI」のブースが設けられ、オフィス家具が描く近未来の循環型経済の姿を、37社から出品されたプロダクトを用いて表現。

企画したケルンメッセの高木氏は「オフィス家具業界でも、リユース、リサイクル、アップサイクルといったサーキュラーエコノミーへの取り組みが本格化してきている」と語り各社それぞれのエコシステムを具現化した事例が紹介されていました。

循環型経済に貢献する新しい技術やアイデアが、オフィス家具マーケットの認識を活性化させてくれるだけでなく、人々の意識も新たにしてくれるでしょう」という高木氏の言葉通り、循環を前提とした製品開発のバリエーションが広がっていることを感じます。

製品を使うことが環境負荷にならないための努力

ADAL展示ブース
提供:ADAL

ORGATEC TOKYO Awards 準グランプリを受賞したADALの展示ブースは、ウレタンフォームをボタン締めで装飾した、立体感のある柔らかなデザインが目を引きます。

このブースで使用したベニヤ板やウレタンといった材料の78%以上を、会期終了後に自社工場で再利用するというコンセプトが高く評価されました。

オカムラのブースではサステナブルな張り地を紹介したパネルを展示。同社ではオフィス業界にSDGsが広がる前からタスクチェアの張り地に再生素材を使っており、現在はそのバリエーションも増えているそう。

さらに、次のステップとして脱炭素化を目指し、材料に植物由来のバイオマスポリエチレンを3Dプリンタで出力した「Up-Ring」のチェアを展示するなど、サステナビリティの実現に向けた多角的な取り組みを紹介していました。

日本国内のものづくりを支える社会貢献

広松木工のミーティングプレイス

日本には”5大家具産地”と呼ばれている地域があり、旭川、静岡、飛騨、広島府中、徳島、大川が代表的なエリアです。

これらの家具産地から、福岡県大川市に拠点を置く家具メーカー「広松木工」、飛騨の老舗家具メーカー「飛騨産業(HIDA)」、家具の街・北海道旭川で50年以上続く「カンディハウス」などが出展。

国内製造にこだわり、地域の産業に貢献しながら持続可能な経済活動を実践している企業の製品を選ぶことも、また一つのサステナブルの形ではないでしょうか。

また、昨年に引き続き日本で採れた国産材を扱うメーカーが増えているだけでなく、地域材と呼ばれる特定のエリアの木材を使用したコントラクト家具への関心が高まっています。

カリモク家具では日本全国30カ所にある資材ルートを紹介したり、オカムラではブース装飾に東京多摩産材を使用したり、カンディハウスは北海道の様々な樹種を製品に採用したりと、地域の木材にフォーカスした展示を行っていました。

各社とも持続可能な生産環境を整えることを目標に、日本の森林を適切に管理する取り組みを実践しています。

コントラクトの家具を通して、国内メーカーの地域を活性化させるための経済活動を支援することも、サステナブルな選択になるのです。

まとめ:自社のオフィスに何が必要かを明確化する時代へ

ケルンメッセ 代表取締役社長 高木 誠氏


今後のオフィス業界のトレンドについて、ケルンメッセの高木氏に伺ったところ「会社に単純なオープンスペースを設けるといった考え方から一歩先へ進み、これからのオフィスは目的別に多機能化していくと考えられる」とのこと。

この言葉からも、働く場所をつくる際には流行に左右されることなく、自社に必要な要素を組み合わせ、それぞれの課題やニーズに応えるカスタムメイドのオフィスが広がっていくことが予想されます。

ソーシャルインテリアでは、オルガテックに出展した国内外のメーカーやブランドの製品を取り扱い、コントラクト案件に求められる様々な要望に応えるソリューションを提案することが可能です。

オフィス移転や事業所の開設を検討している方は、ぜひソーシャルインテリアまでご相談ください。

カリモク家具の展示ブース
提供:カリモク家具
Photo by Masaaki Inoue, Bouillon