会社移転・事務所移転で必要な住所変更の手続き|申請先・必要書類・期限を要確認!

法人の引っ越しは、個人の場合より必要な手続きが多いものです。手続きに期限が設けられており、遅れると罰則の対象となるケースもあります。

会社・法人移転では、いつまでに何が必要か整理し、余裕を持って準備しておくことが大切です。そこで、移転を控えた法人向けに、必要な準備と手続きの内容を紹介します。

社会保険労務士 涌井好文

平成26年より、神奈川県で社会保険労務士として開業登録を行い、以後地域における企業の人事労務や給与計算のアドバイザーとして活動を行う。また、近時は地域に根差した活動だけでなく、記事執筆や監修などを通して、Web上でも活発に情報を発信している。退職時におけるトラブル相談や、転職時のアドバイスなど、従業員側からの相談にも対応し、労使双方が円滑に働ける環境作りに努めている。

オフィス環境は、従業員のパフォーマンス発揮にも大きく影響する要素と考え、企業のオフォス移転やオフィス環境構築にも積極的なアドバイスを行っている。また、労働社会保険諸法令の専門家として、オフィス移転に伴う社会保険や労働保険などの手続きを行うだけでなく、司法書士や税理士などの他士業とも連携しながら、総合的なサポートを行う。

移転前と移転後に行う手続きで分かれる

法人の移転には、税や社会保険などをはじめとした多くの手続きが必要となってきます。また、手続きは移転前と移転後に分かれていることにも注意が必要です。

法務局や年金事務所、税務署など公的機関への手続きは、原則として移転後に行います。ただし、郵便局への転居届に関しては、転送開始希望日の指定が可能なため、移転前でも手続きが行えます。それ以外の手続きは、移転後でなければ行えないため、注意しましょう。

移転において忘れてはならないのが、取引先への案内となります。こちらは、行政機関への手続きと異なり、事前に行うことが一般的です。事前に案内を出しておかなければ、移転に伴う休業期間が先方に伝わらず、取引にも支障を来してしまうでしょう。また、移転後のオフィスに取引先から郵便物が届いてしまう恐れもあります。そのため、最低でも次のような事項を取引先に、前もって案内しておくことが必要です。

・新住所

・移転に伴う休業期間

・新電話番号

2~3か月前から案内状の送付を開始し、1か月前の時点で担当者からメール等で改めて伝えておけば、連絡漏れのリスクを減らせるだけでなく、より丁寧な印象を与えることが可能です。先方にも移転への対応が必要となるため、なるべく余裕を持って案内を行いましょう。

移転後の手続きには、期限が定められている場合が多くなっています。たとえば、年金事務所への手続きは移転後5日以内に行うことが必要です。また、法務局への変更登記申請は、移転後の手続きにおいて、最初に行います。これは、変更登記後の登記事項証明書が年金事務所等への手続きで必要となるためです。

移転前と移転後に行う手続きを表にまとめました。

移転前に必要な手続き
1定款変更の必要性の確認
2取引先への新住所報告
3Webサイト・社内資料など社内の情報の変更
4公共料金の停止・開始の手続き
5リース契約している業者への連絡
6郵便物転送の手続き
移転後に必要な手続き
1法人変更登記
2市町村税事務所への手続き
3国税の手続き
4都道府県税の手続き
5健康保険・厚生年金の手続き
6労働保険の手続き
7雇用保険の手続き
8社用車の保管場所変更の手続き
9銀行・クレジットカード会社への登録情報変更の手続き

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ここまで見てきた通り、法人の移転には非常に多くの手続きが伴います。しかし、あまりにも手続きの数が多く、とても内装にまで手が回らないと思ってはいないでしょうか。そんな時には、ぜひソーシャルインテリアをご利用ください。

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移転前に必要な手続き

移転前も移転後も必要となる手続きは多岐にわたり、そのいずれも重要なものです。ここからは、移転前に必要となる手続きについて見ていきます。しっかりと理解し、各手続きについて見落としがないようにしましょう。

定款変更の有無を確認する

移転に際しては、定款の変更が必要となる場合もあります。

定款には、会社の所在地が記載されていますが、市区町村などの最小行政区画まで定めれば足り、具体的な住所地は必ずしも必要とされていません。

そのため、最小行政区画までしか定めていない場合で、かつ同一市区町村内での移転であれば、定款の変更は不要となります。「本店を東京都新宿区に置く」としている会社が、新宿区内に移転する場合には、定款変更が不要となるわけです。

一方で、定款に具体的な住所地まで定めている会社も多く存在します。そのような場合には、同一市区町村内であるか否かを問わず、定款の変更が必要です。定款の変更は、状況によって必要な場合と不要な場合があると覚えておきましょう。

取引先への新住所の報告(住所移転連絡)

まず忘れてはいけないのが、取引先への移転連絡と、新しい住所の報告です。最低限、次の内容を共有しましょう。

・移転先住所

・移転に伴う休業期間

・新しい電話番号

オフィス移転の連絡は、書面による挨拶状の送付と、担当者ごとのメールや口頭での報告で二重に連絡しておくと、連絡漏れのリスクが減るため安心です。

Webサイト・社内資料など社内の情報の変更

社内の情報も、忘れずに移転までに変更しておきましょう。たとえば、次のようなところで住所変更が必要ないか確認してみてください。

・Webサイトの会社概要ページ

・従業員に配布している名刺

・外部向けの社用封筒

・プレゼン資料や申請書類など共有フォーマットの記載

・社名と住所の彫られている判子

インターネット・電話回線の移転手続き

インターネットと電話は、手続きが遅れると業務に支障をきたすため、移転に間に合うよう手続きが必要です。電話番号は、新たな番号の契約に加え、旧番号にかかってきた電話の転送や、新番号のアナウンスも申し込んでおきましょう。移転の1か月前には手続きをしておきます。

インターネットは、まず契約を継続するか、移転を機に乗り換えるかを決定し、プロバイダに連絡します。回線工事が混み合う時期は、遅くとも2か月前に連絡しておくことが望ましいです。

公共料金の停止・開始の手続き

電気とガス、水道の手続きも忘れてはいけません。電話またはインターネットから連絡が可能です。最低でも2週間前には手続きをしておきましょう。

オフィス内でガスを利用しているケースは、移転先の開栓の立ち会いが必要なため、スケジュールを調整しておきましょう。

リース契約している業者への連絡

PCや複合機など、オフィスの備品をリース契約で使用していることも珍しくありません。設置する場所を契約で指定されている場合には、自社の判断でリース物件を移動させることはできません。契約内容をしっかりと確認しておきましょう。

契約内容によっては、リース会社の手配によって運搬する必要があります。そのような場合に備え、移転が決まった時点でリース会社に連絡し、スケジュールを押さえておくことが必要です。また、自社で運搬可能な場合であっても、できるだけ早めに連絡することが望ましいでしょう。

取引先への案内を送付する2~3か月前を目安に連絡しておけば、急なスケジュールの変更にも対応可能となります。

郵便局:郵便物転送の手続き

事前に取引先に連絡していたとしても、ミスにより移転前の住所に郵便物が届いてしまうことがあり得ます。また、連絡漏れの可能性も否定できないため、郵便局へ転居届を提出し、郵便物転送の手続きを取ることが必要です。この手続きに期限はないため、移転後に行うことも可能です。しかし、転送開始日の指定が可能なため、移転前に行うことが望ましい手続きとなります。

転居・転送サービスの転送期限は1年間です。住所変更に漏れがあった場合、1年以内に変更手続きをしておきましょう。

引っ越し後に必要な手続き|必要な申請・期限・費用について

移転前の手続きは、主に取引先や使用するサービスの提供会社に対するものです。これに対して、移転後に必要となる手続きは、法務局や年金事務所、労働基準監督署などの公的機関に対するものとなります。

このような公的機関への手続きは、期限が定められている場合が多く、期限内に行うことが求められます。以下の解説を参考にすることで、期限内にしっかりとミスなく手続きを行いましょう。

法務局:法人登記変更の手続き

定款変更とは異なり、移転に際する本店移転の変更登記申請は必ず必要となります。ただし、管轄区域内での移転か否かで費用や必要書類は異なります。

たとえば、同一の法務局管轄内での本店移転であれば、登録免許税は3万円なのに対して、管轄外では6万円が必要です。必要となる書類も管轄内外の移転で異なってくるため、以下のリンクを参考にしてください。

参考:商業・法人登記申請手続 株式会社|法務局

登記後に取得できる登記事項証明書は、後の手続きでも必要となります。都道府県税事務所や市区町村、年金事務所、ハローワークなどへの手続きに必要となるため、4通程度発行しておきましょう。

市町村役場:市町村税の手続き

会社は従業員の給与から住民税を天引きしています。そのため、移転に際しては市町村に対して、特別徴収義務者の所在地・名称変更届の提出も必要となります。

提出の期限は設けられていませんが、できるだけ早めに提出しましょう。

また、法人住民税に関する書類として異動届を提出する必要もあります。異なる市町村に移転する場合には、移転前と移転後双方に提出が必要です。こちらも期限は定められていませんが、速やかに提出しましょう。

なお、自治体によって手続きに違いが存在する場合もあります。最新かつ正確な情報を得るために、「管轄法務局の市区町村名+税事務所」などでの検索をおすすめします。

税務署:国税の手続き

国税の手続きは「異動事項に関する届出」(「異動届」の提出)と、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」の2種類があります。

申請内容・異動事項に関する届出・給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
窓口納税地を管轄する税務署。移転前後で納税地が変わる場合は両方の管轄税務署に提出が必要。
必要書類各種届出書を1部作成して提出
手続きの期限【異動事項に関する届出】異動後速やかに提出
【給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出】開設、移転又は廃止の事実があった日から1か月以内
費用無料

どちらも、窓口および郵送で提出できます。同時に手続きしておくと手間も少なく済みます。

都道府県税事務所:都道府県税の手続き

都道府県税の手続きとしては、法人等異動届の提出が必要です。

申請内容法人等異動届
窓口市町村市民税担当窓口(管轄が変わる場合は移転前後の窓口へそれぞれ提出)
必要書類・登記事項証明書・異動の内容が確認できる書類(自治体によって異なる)
手続きの期限おおむね異動から30日以内(自治体によって異なる)
費用無料

提出書類や手続きの期限は、提出先の自治体によって異なります。移転前に電話などで確認しておくと確実です。

労働基準監督署:労働保険の手続き

労働基準監督署に対しては、労働保険の手続きが必要となります。

申請内容労働保険名称、所在地等変更届
窓口移転後の所在地を管轄する労働基準監督署
必要書類・労働保険名称、所在地等変更届・添付書類(自治体によって異なる)
手続きの期限移転から10日以内
費用無料

「労働保険名称、所在地等変更届」は、提出時に控えを受け取れるので、保管しておいてください。雇用保険の手続きを行う際に必要となります。

年金事務所:健康保険・厚生年金の手続き

年金事務所に対しては、健康保険および厚生年金の手続きが必要となります。提出書類は次のとおりです。

申請内容適用事業所名称・所在地変更届
窓口所在地を管轄する年金事務所(管轄が変わる場合は移転前のエリアを管轄する年金事務所)
必要書類・適用事業所名称/所在地変更届・登記事項証明書
手続きの期限所在地変更から5日以内
費用無料

期限が移転から5日以内と短い点に注意が必要です。なお、窓口での書類提出のほか、電子申請や郵送も可能なので、必要に応じて活用してください。

公共事業安定所(ハローワーク):雇用保険の手続き

ハローワークでは、雇用保険の手続きが必要となります。

申請内容雇用保険事業主事業所各種変更届
窓口移転先の所在地を管轄するハローワーク
必要書類・雇用保険事業主事業所各種変更届・労働保険名称所在地等変更届の控え・登記事項証明書
手続きの期限移転から10日以内
費用無料

書類提出時は、労働基準監督署に「労働保険名称、所在地等変更届」を提出した際に受け取れる控えが必要です。先に労働基準監督署の手続きを済ませておきましょう。

警察署:社用車の保管場所変更の手続き

社用車を保有している場合、車庫証明の取得および車検証の住所変更が必要です。

車庫証明の取得

申請内容自動車保管場所証明申請
窓口車庫所在地を管轄する警察署
必要書類・自動車保管場所証明申請書・保管場所の所在地・配置図・使用者の住所を確認できるもの
【他社の土地に駐車する場合】保管場所使用承諾証明書
【自分の土地に駐車する場合】保管場所使用権原疎明書
手続きの期限移転から15日以内
費用おおむね3,000円程度

車検証の住所変更手続き

申請内容車検証の住所変更
窓口・陸運局(普通自動車)・軽自動車検査協会(軽自動車)
必要書類・自動車検査証・車庫証明・登記事項証明書
手続きの期限移転から15日以内
費用・登録手数料350円・ナンバープレート取得費用(2,000円程度)

社用車の住所変更は、車庫証明の取得→車検証の住所変更の順に行います。いずれも移転から15日以内の手続きが必要なため、余裕を持って準備するようにしましょう。

銀行・クレジットカード会社:登録情報変更の手続き

銀行やクレジットカード会社に情報変更を行う場合、移転後の登記事項証明書と社印、印鑑証明が必要となります。書面での手続きが必要なケースが多いため、移転前に連絡し、必要な添付書類を確認のうえ準備しておきましょう。

ただし、銀行やクレジットカード会社によって、手続きの詳細は異なります。早めに詳細を確認しておくことが重要です。

郵便局:郵便物転送の手続き

旧住所に郵便物が届いた場合に備え、郵便物の転送手続きを行っておきます。

申請内容転居・転送サービス(法人転居届)
窓口最寄りの郵便局
必要書類・申請者と法人の関係がわかる社員証や健康保険証などの証明書類・旧住所が確認できる書類(登記事項証明書など)
手続きの期限とくに期限はなし。転送開始日の指定ができるため移転前に手続きするのが望ましい。
費用無料

転居・転送サービスの転送期限は1年間です。住所変更に漏れがあった場合、1年以内に変更手続きをしておきましょう。

許可行政庁:許認可の記載内容変更の手続き

建設業許可や派遣事業許可など、何か許認可を受けている場合、こちらも住所変更の手続きが発生します。期限は管轄によって異なりますが、30日以内としていることが一般的。

手続きの詳細は、管轄役所に確認しておきましょう。たとえば、土地・不動産・建設業の許可を受けている場合、変更事由ごとに定められた期間内に、許可を受けた行政庁に変更届などの書類を提出することが決められています。

会社の住所が変わるときに覚えておきたいポイント

最後は、会社の住所を変更する際に、押さえておきたいポイントを2点紹介します。手続きを怠ると罰則が課せられる場合もあるため、よく確認しておきましょう。

1 定款変更が必要になる場合がある

会社の定款に詳細な住所を記載している場合、定款の変更が必要な場合があります。たとえば、所在地について「本店は東京都足立区に置く」としている場合、足立区内の移転であれば変更は不要です。

しかし、足立区外に移転する場合や、番地まで詳細に記載している場合は本店移転時に定款の変更が必要となります。定款の変更には、株主総会の特別議決を行わなければなりません。この決議では、議決権の過半数を有する株主が出席し、なおかつ議決権の3分の2以上の賛成を得る必要があります。

2 登記の申請期限を過ぎると過料が課せられる

登記の申請に関しては、既定の2週間から遅れた場合、罰則が定められています。そのため、手続きを怠ると、裁判所から過料決定通知書が送付されてくる場合があります。申請期限を超過すると100万円以下の制裁金(過料)の対象となります。

多少の遅れであれば、目をつむってもらえたり、数万円の過料で済んだりすることもあります。しかし、申請を怠った期間が長くなるほど、金額が上がる可能性があるため、期限を過ぎた場合でもできるだけ早く手続きを行うことが重要です。

住所変更に伴う手続きは計画的に!

住所変更に伴う手続きは計画的に!

会社が移転する際には、多くの手続きが必要となります。事前の連絡や準備、事後の届出など、行うべきことが多いため、計画的に進めることが大切です。手続きに漏れがあれば、罰則を受ける可能性もあるため、注意してください。

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