目次
ABWの意味をおさらい
ABW(Activity Based Working)は、ワーカーが目的に応じて、場所・時間・ツール等を自律的に選べる状態にすることを目指す、ワークスタイル戦略です。フリーアドレスやフレックスタイムのような手段の話とは根本的に意味が異なります。
ABWの起源は1990年代に遡り、オランダのワークスタイルコンサルティング企業ヴェルデホーエン社がABWの枠組みを構築し、ワークプレイス変革プロジェクト全体に採用したのが始まりといわれています。
1995年にはABWの大規模なプロジェクトがオランダの保険会社に採用されました。そして同社は2019年に日本での活動を開始しています。したがって、日本ではまだ歴史が浅いワークスタイルといえます。
なぜABWという言葉を聞くようになったのか
近年ABWという言葉を聞くようになった背景には、労働市場における人材獲得競争の激化や、コロナ禍をきっかけとしたリモートワークの普及などが挙げられます。
これまで労働環境の中心をなしていた、オフィスにおいてフルタイムで働くという固定化された勤務体系では、多様な働き方のニーズに対応できない時代になったのです。
社員のABWを推進するためには、オフィス環境の改善が必要です。その改善策として、社員が集中できるスペースとオープンスペースを分ける、ディスカッションができる小会議室を用意するなどの方法が考えられます。
集中できるオフィスのアイデアについては、下記の資料が参考になります。
ABWの導入検討は目的から考える
ABWの導入検討は、目的から考えます。ABWを導入して実のあるものにするには、経営者自身がABWの考え方に共感するとともに、社員の納得を得られるかが重要です。社員が導入に前向きになれば、ABW導入の効果をより高めることができます。
導入を検討する際は、以下のような目的を社員と共有し、より働きやすい職場環境になることを理解してもらうことが大事です。
- 社員間の壁を下げ、その場での意思決定・解決を促進する
- 社員が集中できる環境を用意し、それによって生産性を上げる
- 勤務時間や執務場所など労働環境を整備することで、採用競争力を上げる
ABWは目的でも手段でもなく、方針
先に挙げた社員と共有すべきレベル感を目的、フリーアドレスやフレックスタイムなどを手段と考えると、ABWは方針に該当します。
ABWはこれまでのような会社が決めた経営方針に沿って社員が働くワークスタイルとは異なります。働く時間や場所、手段などを社員に選択させ、自主性を育むことによって全体のパフォーマンスを高めようという方針です。
もちろん会社の方針によっては、働く環境を固定する選択肢もあります。自分の席や労働時間が決まっているほうが安心して働けるという社員もいるからです。また、個人情報の管理など秘匿性を要する事業内容の場合など、固定席のほうが適しているケースもあります。
目指す目的にABWの方針が合致するのであれば、ABWを取り入れるとよいでしょう。
ABWの導入を行う際は、手段を実行した後に計測可能な状況で評価できるように、評価の指標を作っておくことが重要です。
例えば、社員が仕事に集中できたかという点に関するアンケートを実施してスコア化することや、採用競争力の向上に関して実際に応募してきた人数で判断するなどの評価方法が考えられます。
指標を作っておくことで、目的に立ち返って方針や手段を評価することができます。

手段を検討する
ABWの導入を決定したら、達成するための具体的な手段を検討します。主な手段としては以下が挙げられます。
- 定められた総労働時間の中で、始業と終業の時間を自由に決められるフレックスタイム
- 自分の執務席を固定せず、業務内容に合わせて自由に席を選択できるフリーアドレス
- 自宅で仕事ができる在宅勤務
- 社員が集中して効率的に仕事に取り組めるオフィスレイアウトへの変更や、新たなブースの設置などのオフィス改装
目的に立ち返って方針や手段を評価する
最後に、それぞれの手段を取り入れた後、目的に立ち返って方針や手段を評価します。先に例に挙げた項目をはじめ、自社が掲げた目的をどの程度達成できたかを、経営者と社員が共有することが重要です。
万一目的を達成できなかった場合、目的に立ち返ることで方針や手段が適切であったか検証することができます。
ABWを実現するためのオフィス環境案
ABWはワーカーが時間や場所、仕事のやり方などを選択できるワークスタイルです。そのため、本来は在宅勤務も含めますが、ここでは狭義のABWとしてオフィス環境について考えてみます。一般的なABWを採用しているオフィスでよく見られる環境は以下のとおりです。
集中ブース
集中ブースは個人作業や思考に集中しやすい環境を確保するためのスペースです。集中するための工夫として、背面を壁側にする、側面パネルの高さや透過度を調整するなどの方法で視線を制御することができます。
また、吸音パネルなどの吸音材を配置するほか、タスクライト、微弱ファン、オフィスチェアの高さなどを個別に調整できる工夫も必要です。
集中ブースを使いやすくするには、稼働ランプやプレートの使用で空き状況を可視化することが重要です。
オープンスペース
オープンスペースは短時間の簡単な打ち合わせや相談に便利なスペースです。執務エリアと直接つなげることを避け、音の拡散を抑える必要があります。そのためには、パーテーションなどの緩衝帯を設けることが有効です。
加えて、移動可能なホワイトボードを使うなど、打ち合わせの記録をしやすくする工夫も検討できます。
フォンブース
フォンブースは、個人の通話やオンライン会議を周囲に影響を与えずに行うことを目的に設置するスペースです。得意先との通話やビデオ会議など騒音のない状況で利用したいときに便利です。
フォンブースは、使用方法をルール化(飲料持ち込みの可否など)しておくことが望ましいです。また、ガラス張りのものを採用するなど使用状況がひと目でわかるのが理想です。
会議室
会議室はディスカッションから機密性の高い議論までを行う部屋です。会議の種類によって様々な人数に対応できるように設置します。遮音効果を持たせるほか、モニター、テーブル、オフィスチェアなど基本的な機器やオフィス家具が必要です。
部屋のサイズは、会社個別の会議室使用状況や、会議室の規模別最大利用数の状況に応じて設定します。
会議を効率的に進めるため、HDMI/USB-Cケーブルや無線LANの併用などで、用意している画像や資料などを短時間で投影できる状態にしておくことが望ましいです。
休憩スペース
休憩スペースは、一定時間仕事を続けたときの気分転換や、短時間の疲れの回復、同じく休憩を取る社員同士の緩やかな交流などを行うことを目的に設置します。
社員がリラックスできるように、光量が少ない暖色系の照明や刺激の少ない落ち着いたBGMにすることが望ましいです。
休憩室を設置するメリットに関しては、こちらの記事も参考になります。ぜひご参照ください。
事例
ここでは、実際にABWを導入した企業の事例を紹介します。
キンコーズ・ジャパン株式会社様
キンコーズ・ジャパン株式会社様は新店舗の出店に当たり、「可変性のあるレイアウト」を重視した設計にすることで店舗の魅力を高めることに成功しています。
一般的に店舗のレイアウトは固定化されますが、同店舗ではカウンターやテーブルなどで自由に動かせる家具を選定し、イベントスペースやワークスペースなど用途によって柔軟に変更できる空間を実現しました。
また、個室休憩ブースを導入するなど、スタッフが「ここで働きたい」と思えるような、魅力的な職場環境の実現にも力を入れています。
ABWの方針はオフィスだけでなく、店舗にも応用できることを示す好事例といえます。
株式会社ジャンプコーポレーション様
株式会社ジャンプコーポレーション様は、コロナ禍によるリモートワークの普及に伴い、社員の出社率が低下してコミュニケーション不足が生じていることを課題としていました。
そこで同社はオフィス移転を決断し、「社員が来たくなるようなオフィス」をコンセプトにABWの導入に取り組みました。
レイアウトや商品選定にもこだわり、たとえば、おにぎりのような三角形上のテーブルにすることで、斜めの角度で向き合い自然にコミュニケーションがとれるように工夫するなど、オフィスには斬新なアイデアが目立ちます。
コロナ禍によるオフィス移転を、ABW導入の好機とした好事例です。
株式会社巻組様
株式会社巻組様は、宮城県石巻市でクリエイティブ拠点「Creative Hub加美」を手掛けています。
同施設は、築120年以上の古民家をリノベーションしたコワーキングスペースです。仕事に必要なWi-Fi、会議室、モニターなどが用意されています。
また、アトリエや宿泊施設としての機能も備えており、土間スペース、作業台、シェアキッチンもあります。
コワーキングスペースの自由な空間で仕事をし、場合によっては宿泊(有料)もできる。まさに時間と空間に捉われないABWの方針を体現できる施設です。
リノベーションもまたABW導入のきっかけになることを教えてくれる好事例といえます。
まとめ
ここまでABWについて、基本的な考え方や具体例について見てきました。ABWの導入を検討する際は、目的から考えることをおすすめします。ABWはワークスタイルに対する方針であり、目的や手段を指すものではありません。
ABWを導入する前に、その導入目的と評価指標を決めておくことが重要です。評価指標も含めてABWの導入を決定したら、フリーアドレスの採用などABWを実現するための具体的手段を検討しておくとよいでしょう。
最後に目的に立ち返り、それが実現できたかを事前に定めた評価指標に沿って判断します。この立ち返る評価のために、事前に目的や評価指標を決めておくことが重要になります。
もう一点、ABWを後押しする手段として、オフィス環境を整えることも大事なポイントとして挙げられます。下記の「集中力を高めるオフィスにするためのアイデア集」も参考にされるとよいでしょう。
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