【オフィス移転のプロが提案】移転ではない、斜め上の選択肢

社員の数が増えてオフィスが手狭になってきた、来客へのオフィスの第一印象を良くしたい―そんな課題を解決する方法として「オフィス移転」を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。しかし、オフィス移転は費用や移転の工数などを考えると負担が大きいものです。

そこで検討したいのが、オフィス移転以外の選択肢です。たとえばオフィス内のレイアウト変更や改装、家具の刷新など、現在のオフィス空間を生かした改善によって、費用や手間を抑えながら課題を解決し、理想的なオフィス環境を実現できる可能性があります。

本記事では、オフィスの問題を解決する「移転」以外の選択肢について、目的別に解説します。また、移転に伴う影響を整理したうえで、オフィス移転を行わなかった事例とオフィス移転を行った事例をそれぞれ紹介します。自社のオフィスに関する課題解決に最適な方法を見つけるヒントとしてお役立てください。

オフィス移転以外の選択肢

一からオフィスを設計するオフィス移転なら課題を解決しやすいとつい考えがちですが、移転するかしないかを決める前に明確にしておきたいのは、「どのようにオフィスを使いたいのか」ということです。

オフィスの理想的な使い方と現実のオフィスの使い勝手との間にギャップがあるために、オフィスの使いづらさを感じているわけですから、自社の勤務体制やワークスタイルに合ったオフィス環境が整備できるなら移転以外の選択肢も十分検討の余地があります。

オフィスの課題解決の目的別に、オフィス移転以外で課題を解決する方法を解説します。

集中環境を確保したい場合

社員がそれぞれの仕事に集中できるオフィスは、生産性を高める効果を得る要素として非常に重要です。

オフィスの1フロア全体が見渡せるレイアウトは開放感があり、社員同士がコミュニケーションを取りやすいメリットがある一方で、コピー機や電話の音、他の社員の会話などさまざまな音が響いてざわざわとした雰囲気になりやすく、人によっては集中できないと感じることがあります。開放感を維持しつつ集中できるオフィス環境をつくりたい場合は、半個室スペースを設ける、集中ブースを新設する、120度の形状のデスクを組み合わせるベンゼン式レイアウトに変更するなどの方法がおすすめです。

一人で集中したい、落ち着いた状況で顧客と通話したいといった使用目的なら、集中ブースをオフィスの奥の一角や壁沿いなど他の社員が頻繁に行き来することのない位置に設けます。天井までの間仕切り壁を立てなくても、吸音素材のパーテーションでオフィススペースと仕切る簡易的な方法で対応できます。リモート会議を行う頻度が高いなら、周囲を気にせず会話ができるフォンブースを使用するのがおすすめです。

通話やリモート会議はしないけれど作業には集中したい、自分だけのスペースを確保して資料を広げたいという使用目的なら、デスクの島の端に仕切りスペースを設けるとよいでしょう。座った時に頭が隠れる高さのパーテーションを使えば、近くを通る社員の視線をカットして集中しやすいうえに、オフィス全体の気配も適度に感じられます。

半個室スペースや仕切りスペースを設ける際は、PC機器や手元照明が問題なく使用できるよう、レイアウト計画と同時に配線計画についても十分な検討が必要です。OAフロア(配線を床下に収納できるよう二重構造になった床)になっていれば配線しやすいですが、そうでない場合は新規配線用の電源容量に余裕があるかを確認し、コンセントや照明を適切な位置に配置しましょう。

このように、レイアウトの刷新や配線工事によって集中できるオフィス環境をつくることが可能です。オフィスのある建物の築年数が古く遮音性能や電源容量に問題がある場合や、交通量が多い幹線道路沿いの建物にオフィスがあり車両の通行音が激しいといった場合は根本的な改善が難しいため、移転も選択肢に含めて検討してください。

採用ブランディングを強化したい場合

積極的な採用活動を行っている場合、オフィスは企業ブランディングのツールのひとつになり得ます。会社訪問などで来社した応募者に与えるオフィスの第一印象は、企業イメージに直結するからです。「こんな素敵なオフィスで毎日働きたい」と感じてもらえるようなオフィスづくりは、採用活動における競争力を左右します。

まず重要なのは、応募者が行き来する受付から面接室までの動線が社員の動線と重ならないようレイアウトすることです。面接室は社員の声や電話の音が聞こえない静かな位置に設け、清潔感のある内装で仕上げます。これらはオフィス内のレイアウト変更や内装工事で十分に改善できます。

受付や面接室は、企業のロゴを掲示したりコーポレートカラーを使った内装にしたりして、自社の理念や企業文化カルチャーを感じさせる雰囲気づくりもおすすめです。

一方で、オフィスが通勤しにくい立地にあったり、周辺環境がネックとなっている場合は、オフィス内の改装で解消できる問題ではないため移転を優先的に検討しましょう。改装と移転、どちらがより採用ブランディングの強化という目的を実現しやすいか、慎重に比較し判断することが大切です。

人員変動へ対応したい場合

企業の組織変更に合わせた増員や減員に対して柔軟に対応したオフィスづくりは、社員のモチベーションにも影響します。特に成長期にある企業の場合、人員の増員スピードが早く組織再編を何度も行う可能性があるため、その変化に対応できるのはもちろんのこと、将来の変化もある程度見据えた空間設計が求められます。

たとえば、レイアウト変更がすぐにできるようキャスター付きの間仕切りを採用したり、大小の会議室を用途に合わせて区切ったり一体化させたりできるよう天吊り式のスライディングウォールを設置したりすることで、人員の変動によるオフィス空間の可変性を高める方法を選択するとよいでしょう。

オフィス内のレイアウト変更に対応するために、電源やLAN配線についても余裕を持った計画が必要です。スペースを効率よく活用したいなら、フリーアドレスの導入も検討してみましょう。社員の人数分の固定席を設置しない分、会議室を増やしたりリラックススペースを新設したりとレイアウトの幅が広がります。いずれもそう大きくない規模の内装工事で実施可能な方法です。

ただし、建物自体の構造や賃貸借契約上の制約がある場合や、物理的な広さと人員数とのバランスが明らかに取れていない場合は、組織体制に合うオフィスレイアウトが可能な床面積の物件への移転を検討するのが妥当です。

来客の体験を向上したい場合

オフィスの入口から応接室までの導線は、顧客や重要なビジネスパートナーの信頼度を高めるかどうかの鍵を握る部分です。企業の顔とも言える受付では、モダンな雰囲気や重厚な雰囲気など、来客に与えたい自社のイメージを形にした内装演出が効果的です。応接スペースは打ち合わせがしやすい静かで落ち着いた内装に仕上げ、ある程度余裕を持ってソファやテーブルを配置できる広さを確保すると来客に安心感を与えられます。

オンライン商談にも活用できるよう、背景の見え方や照明バランスへの配慮があるとより使いやすいです。商談中の様子を録画したり同時通訳を行ったりする必要がある場合は、音響設備や通信環境の整備も考慮しましょう。こうした対応は改装でも実現可能です。

ただし、建物の構造や床面積の関係で応接室とオフィススペースとのゾーニングが思うようにできず電話や社員の声が響いてしまう、天井高が低く圧迫感が解消できない、荷捌きの動線に制約があり業務がスムーズに進まないといった問題は、改装での解決を目指したとしても限界があります。根本から来客動線を整えやすい移転という方法が近道でしょう。

移転に伴う影響

オフィス移転は、一からレイアウトや内装を手掛けるため、一見オフィスに関する課題解決がしやすい印象があるかもしれません。しかし実際には、費用面やオフィスとして活用できるようになるまでにかかる時間、事務手続きなど、見落とされがちな課題が多く存在します。移転を行う場合は、以下の項目を入念に検討して判断することが重要です。

原状回復の実費が嵩む

退去時に必要な原状回復工事は、賃貸借契約書に基づいて行う必要があります。特に、躯体現し(コンクリート躯体を露出させた設計)において、間仕切り等の設置のために追加工事を行っていた場合は、入居する前の状態にきちんと戻さなければいけません。

入居時にオフィスとして機能させるためのレイアウトや設備のための工事をしている分、原状回復工事にかかる費用は高くなりがちです。転出までの期間が短く夜間に工事をせざるを得ない場合は、養生や搬入に制約が発生することもあり、費用が割高になる可能性があります。

回線工事の待ち時間が全工程を押す

通信インフラの整備は、移転工程全体のスケジュールを左右します。移転先の回線工事において、ビルのMDF(主配線盤:ビル全体の通信回線が集約されている場所)からオフィスまでの引き込みや増設には時間がかかることが多いうえに、他のオフィスの転入出が重なると想定以上のリードタイムが発生しかねません。開設日が予定期日よりも後ろ倒しになり、移転スケジュールに支障が出る恐れもあります。

入退室やセキュリティの再設計が重くなる

オフィス移転では、入退室管理やセキュリティの設計を一から見直す必要があります。勤怠システムと連動した入退室カードの再発行や認証権限の設定変更、移転先の環境に応じた監視カメラの配置計画の再考、ログ運用の見直しなど、セキュリティシステムの運用面における調整に多くの時間と手間を割くことになります。社員数が多い場合やオフィスが複数フロアにまたがる場合は、特に慎重な計画が求められます。

住居変更に伴う事務手続きが広範囲に及ぶ

オフィス移転にはさまざまな事務手続きが付随します。現在のオフィスの解約にはじまり、インターネット回線や電話の移転手続き、銀行口座やクレジットカードの登録情報変更、顧客や取引先への連絡など多岐にわたります。さらに法務局や税務署、労働基準監督署、都道府県税事務所、ハローワークなどで所定の移転手続きが必要です。特に法人登記や銀行口座の登録変更は時間がかかるため、業務への影響を考慮して計画的に進めなければいけません。企業規模によっては専任者を置き、事務手続きを円滑に進める必要があり、そのための人的コストの支出を見積っておく必要があります。

オフィス移転を行わなかった事例

オフィスに関する課題を解決するにあたって、オフィス移転をせず改装やレイアウト変更によって対応した事例は多いです。オフィス移転をすべきか迷っているならぜひ参考にしてほしい事例を3つ紹介します。

サブスク家具の導入で柔軟性の高いレイアウトを実現~株式会社明電舎様~

ニーズに合わせたレイアウト変更ができるよう、家具を購入するよりも初期費用を抑えられる家具サブスクリプションサービスを利用した事例です。チームで成果を出すという働き方をサポートする拠点「デジタル・ラボ」のコンセプトを具体化できる選択肢として、家具をより柔軟に入れ替えできる「フレキシブルプラン」を導入されました。植栽との組み合わせにより、新たな価値の創出に向けて常に刺激を受けられるオフィスとしての変化に対応しています。

企業の歴史が垣間見えるレトロモダンのインテリアコーディネート~株式会社河野様~

築年数が経過したビルの雰囲気を生かしたインテリアコーディネートで改装した事例です。家具サブスクリプションサービスを通して、140年という歴史の重みを自然と感じさせるインテリアに仕上げ、家具や什器の導入コストを抑えることに成功しました。オフィスのインテリアテーマを明確に設定し、レトロさを魅力に変える工夫をふんだんに取り入れた結果、社内外での評判が高まり企業ブランディングにも役立っています。

利用者の多様なニーズに幅広く対応~野村不動産株式会社様~

ホームファニチャーを配置して、集中とリラックスのどちらも可能なオフィス空間をつくった事例です。ワークスタイルの多様化に対応した小規模賃貸オフィスとして、仕事領域と生活領域が絶妙なバランスで重なるレイアウトとなるよう家具サブスクリプションサービスで対応しました。利用者の好みに応じて家具選定ができるため、家具の導入コストを抑えながら多様なニーズに応えることが可能です。

オフィス移転を行った事例

既存オフィスの状況を踏まえて、課題を根本的に解決するために移転を選択し、成果を上げた事例も多数あります。課題解決のヒントになる事例を3つ紹介します。

【集中環境の確保】図書館のように集中できる執務室へ~ゴウリカマーケティング株式会社様~

部署ごとにフロアが異なり、部署間の連携や出社状況の把握が難しかった既存オフィスから移転し、オフィスレイアウトを刷新した事例です。新オフィスでは来客スペース、執務スペース、ブースミーティングスペースの3つのゾーンをワンフロアでゾーニングしながら一体感も感じさせるレイアウトとしました。ブースミーティングスペースは低めのパーテーションで仕切り、圧迫感を抑えながらも会議に集中できるだけでなく、適度にリラックスできるようナチュラルテイストのインテリアと暗めの照明でコーディネートしています。

【人員変動】キャパシティ不足と音問題を移転で解決~フォースタートアップス株式会社様~

社員数が200名近くにまで増え、会議室の不足や音の問題による業務への集中の難しさといった問題を解決するために、移転という方法を選択された事例です。執務エリアは将来的なレイアウト変更に対応できるよう、壁や仕切りを設置せずオープンスタイルとしました。会議室内の音が外に聞こえにくい音響システムを採用することで、社員が集中して業務に対応できる環境を整備。ゆったりとしたスペースの会議室を充実させるとともに、電気配線や映像音響設備は今後のレイアウト変更にも柔軟に対応できるよう拡張性を重視した構成としています。

【来客体験】秋葉原で実現した”見せる”オフィス~フォースタートアップス株式会社様~

オフィスの移転に伴い、お客様をお迎えするエリアをオフィスデザインの重要ポイントのひとつとして整備した事例です。エントランスからオープンスペースに続く通路の中央は余白を持たせた空間とし、ギャラリーやイベント時のサブスペースなど多様な用途に対応できるようデザインしました。通路を抜けた地点には開放感あふれるオープンスペースを配置。ギリシア・ローマの円形建築を思わせる白をベースとしたインテリアで仕上げ、お客様との絆を深める交流の場として活用しています。

まとめ

オフィスの課題を解決する方法として、オフィス移転をまず考えるというのは一般的ではありますが、本記事で解説したように、現状と課題解決の目的によっては改装で対応できる場合もあります。現在のオフィススペースを活かしたレイアウト変更や内装改修、家具の入れ替えなどによって、時間も手間もコストもかかる移転より効率的かつ経済的に生産性を高めるオフィスへと改善することが可能です。

もちろん、建物の構造や周辺環境、床面積などが課題解決を妨げる主な要因である場合は、改装よりも移転する方が適切な場合もあります。重要なのは「どのようにオフィスを使いたいのか」というオフィスに関する課題解決のゴールを明確にし、その手段として適した選択肢を的確に選ぶことです。移転の際に見落としがちな原状回復工事や回線工事、セキュリティ設定、事務手続きなどの負担も踏まえて判断しましょう。


ソーシャルインテリアでは、移転・改装のどちらにおいても数多くの実績を持ち、家具の導入事例も豊富です。オフィスの課題解決の方法として移転以外の方法も含めて検討をお考えなら、まずはお気軽にお問い合わせください。

私たちがオフィスの課題解決に最適な方法を提案し、生産性をさらに高めるオフィス構築を総合的にサポートします。