【Interior Knowledge Report vol.1】家具が紡ぐストーリー | 椅子研究家 織田憲嗣さん インタビューレポート

提供:織田コレクション協力会

ソーシャルインテリアの事業を語るうえで外せない「家具」「オフィス」「デザイン」といった分野に、関わりの深い有識者をフィーチャーし、その知見や洞察をお伺いする連載コンテンツ「Interior Knowledge Report」。

第1回目で取材させていただいたのは、日本五大家具産地として知られる旭川近郊に自邸を構える織田憲嗣(おだのりつぐ)さん。

長年にわたりデザイナーズ家具や日用品を収集・研究し、本当に価値のあるものを後世に継承しようとする活動が、国際的にも高く評価されています。

今回は“本物の家具に親しむ”ことや、”よいものを長く使い続ける意義”を大事にされている織田さんのマインドと、ソーシャルインテリアのミッションである “よいものを長く使う、循環する社会の実現” に親和性を感じ、インタビューを実施させていただきました。

読み終えた頃には、きっと今よりもよい家具をオフィスや自宅に迎え入れたくなることでしょう。

椅子の“収集”から”研究”へ

織田さんがこれまでに収集してきた優れたデザインの家具と日用品群「織田コレクション」は、椅子1400種類以上、テーブル・キャビネット125種類以上、陶磁器3500ピース以上、カトラリー約1500ピース、図面や文献、フォトライブラリーなどの研究資料を含めると、なんと数万点にも及びます。

そんな織田さんが、研究の道に進むことになった経緯をお伺いしました。

東川町複合交流施設「せんとぴゅあ」内、織田コレクション ギャラリー

「当初はただの椅子のコレクターで、正直100 脚集めた頃に置くところもないし、色々なところに迷惑をかけるようにもなったのでやめてしまおうかと思ったんです。そんなときにあるアメリカの世界的な家具メーカー(Knoll社)から、『セールをやっているから、見に来ませんか』と連絡がありました。当時の職場から歩いていける距離だったので昼食がてら行ってみたら、ものすごい家具のリストを見せられました(当時大阪にはショールームは無く、小さな事務所のみでした)。たとえばYチェアが1脚1万円、チニ・ボエリの110万円のソファは10万円と驚くような金額になっていたんです。それらを目にしたときに、もう迷いは吹っ飛んでいきました。自分の好きとか嫌いではなく、後世に残すべき価値あるものは全部残していけるように、研究の道に進もうと決意したわけです。そして、その場で約450万円相当の家具をキープしました。」

それらの家具が一気に届き、すべての家具を保管するために、織田さんは急遽もう1部屋を借りたといいます。そのタイミングで椅子の研究室である『CHAIRS?※』を、京都市立芸術大学の非常勤講師を勤めていた妹尾衣子さんとともに立ち上げたのです。 
(※Sの表記は、Sを反転させて下に・を入れ、椅子とは?という問いかけの姿勢を生涯失わないようにとの考えをロゴタイプ化したもの)

これまでの研究を振り返って

提供:織田コレクション協力会

ここからは、長年にわたる研究の過程で直面した困難について、お話しいただきました。

「大変だったのは、経済的なことですね。私は資産家の家に生まれたわけでもなく、どこかから経済的支援を受けていたわけでもない。ですから、イラストレーターとして絵を描いたり、グラフィックデザインの広告制作をしたり、そういった仕事から得たお金だけで研究を進めていたので、金銭的な面はいつも大変でした。ですが、そうやって苦労して手に入れた分、1400脚のコレクションの1脚1脚どれをとっても記憶の中にあるものばかりです。」

多くの苦労があったと同時に、誰も経験したことがないような素敵な思い出も数え切れないほどあったそうです。

「思い出に残っていることは、本当にいろいろあります。デンマークでの取材では、回を重ねハンス・ウェグナーさんには8回お会いしていますし、フィン・ユールさんにも2度取材をしています。日本国内では長大作さんとは10年間一緒に審査員をやらせていただきましたし、渡辺力先生ともお話をさせていただいてますが、とても謙虚な方でした。皆さん、亡くなってしまいましたが、そういったミッドセンチュリーの頃に活躍された方のお話を直接聞いている最後の世代が、今の私ではないかなと、そう思っています。」

日本にデザインミュージアムを

若かりし頃に研究の道に進むことを決意された織田さんですが、その当時から”日本に椅子のミュージアムを作りたい”という想いがありました。

提供:織田コレクション協力会

「私は25歳で結婚して、27歳で子どもが生まれているんですが、当時まだ小さかった子どもをおんぶして、関西でミュージアムの候補地を探しに行ったという思い出があります。なぜ若い頃にそんなことをしていたかというと、先進国でありながらデザインミュージアムを持たない日本にずっと疑問を感じていたから。”国が作らないなら、自分でやりたい”と色んなところに足を運びました。バーチャルではなく、リアルな体験ができる場所が絶対に必要だと思っていますし、あれから、もう半世紀以上経っていますが、私の気持ちは全く変わっていません。」

当時から絶やすことの無い情熱が、現在織田さんが学術協力で深く関わっている展示会や、東川町で展示されている織田コレクションにつながっています。

「昨年開催された『フィン・ユールとデンマークの椅子展』は、約65,000人が来場し、図録も最終日前に完売という大成功を収めました。今年の3月に日本橋高島屋で開催された北欧展も、わずか3週間で約30,000人の方に足を運んでいただき好評を博しました。JR東海名古屋高島屋に続き、現在(2023年8月4日〜20日まで)、大阪難波の高島屋でも催事を行っており、日本橋と同じくらいの人数が足を運んでくださっていると聞いています。これらの展覧会に多くの方が来場していただいたことは、私たちにとって大きな成功といえるでしょう。
しかし、仮に東川町にミュージアムを建設した場合、ここまでの結果にはならないでしょう。なので私は、サテライトミュージアムの概念を重視しているんです。
来年から再来年にかけて3つの大規模な展示会を計画しており、その全てが都内で開催されますが、東川町はミュージアムの本部機能として、他の場所にも展示物を貸し出して、共同企画を行ったり、巡回展を実施したりする予定です。これにより、リスクを最小限に抑えつつ、デザインミュージアムの本部機能を強化し、広く展覧会を楽しんでいただける環境を提供できると考えています。」

旭川家具の魅力と、これからの課題

提供:旭川家具工業協同組合

織田さんが住む地域であり、日本五大家具産地のひとつとしても知られる「旭川地域」。

サテライトミュージアムの本部機能として織田さんが東川町を選んだ理由には、家具の名産地である旭川という地域の特性が大きく影響しているといいます。

これまで、最も近くで旭川家具の歴史を見てきたといっても過言ではない織田さんに、旭川家具の魅力や今後について伺いました。

「家具のインフラという面を考えたときに、旭川は世界一の地域といえます。主に5つの要因があると考えていますが、それを説明していきますね。1つ目に、旭川が優れた北海道産を中心とした木材の集積地だということ。2つ目に、旭川地域には木工や家具に携わる人材の教育機関と研究機関が多数存在していること。3つ目は、100社以上存在する周辺地域の家具メーカーや木工作家達の存在。4つ目はIFDA(国際家具デザインコンペティション旭川)によって、世界中の感性を引き込む仕組みを有していること。最後に、”織田コレクション”をはじめとする数万点に及ぶデザイン資料の蓄積。これらの家具インフラが整っているのは世界中でも旭川地域だけです。」

しかし、その優位性を活かし切れていない理由として、3つの課題があるそう。

「まず、家具メーカーの経営者やトップ層がデザインに関する感性や知識を高める必要があります。イタリアのように経営者がデザインに対する感性を持つことは、日本の家具産業においても重要です。次に、家具メーカーはデザイン力を今よりも向上させる必要があります。すでに海外の優れたデザイナーとコラボして素晴らしい商品を発表しているメーカーもありますが、まだその動きが少ないと感じていますね。最後に、旭川地域に限られず、日本全国の共通の問題でもありますが家具職人の待遇改善。家具職人は高度な技術を持ちながらも、適切な待遇を受けていない場合があり、これは大きな問題です。講演会の際、ある家具職人さんに、『自宅でもよい家具を使いなさい』という話をしたところ、ファストファニチャーメーカーの家具を自分の技術で直しながら使っているという話を聞いて、本当に悲しくなりました。デンマークをはじめとする北欧諸国の例を見ると、技術を持つ職人は自分たちが作った家具を手軽に購入できる待遇を享受してるので、そこは見習わなければなりません。」

「それから、もう一歩踏み込んだ話をすると、日本の木工作家には、技術だけでなくデザインに関するヘッドワークも必要です。感性と論理性を兼ね備えた、バランスの取れたデザインが生まれるためには、ハンドワークだけでなく、ヘッドワークも欠かせません。デザインと技術が一体となることで、持続可能で魅力的な家具が生まれるのです。」

織田さんにとってのワークプレイス

最後に、ソーシャルインテリアのメイン事業である「オフィス」について、織田さんのお考えを伺いました。

織田さんの高島屋勤務時代(提供:織田コレクション協力会)

「最近では、コロナの影響でリモートワークが増えたことで、そのとき空いている場所を使うというフリーアドレス式を採用するオフィスが多くなっているようですが、私はやっぱり自分の定位置が欲しいですね。出勤して、自分が仕事するワーキングスペースがコロコロ変わっているというのは、何か落ち着かない。僕が新入社員の頃はデスクの通路側にわざと自分でコツコツ書いたイラストレーションを置いて、必死に上司に見てもらってイラストレーションの仕事を勝ち取ろうとしていました。
あとは研究する立場の人間からすると、文献・図面などリアルな資料を大事にしたいので。それを身近に保管しておくためにも、固定席は重要だと思っていますね。」

提供:織田コレクション協力会

あとがき

ファストファニチャーや日用品の普及をはじめとするさまざまな要因によって、人々と本当によい家具の距離が離れてしまっている現代。その中でも、織田コレクションをはじめとする織田さんの研究・活動そのものが、我々に”よいものを長く使い続ける意義”を再考させるきっかけを与えてくれているのではないでしょうか。

ソーシャルインテリアの主要事業であるオフィス環境においても、これまでは什器に近い簡素な家具が選ばれるのが一般的でした。しかし現在、オフィスは単なる働く場所ではなく、”誰かに会いに来る場所” や、”より快適に働くことできる空間”として再定義され、内装や家具の選択肢も多様性を持つようになっています。

ソーシャルインテリアでは、本記事でも登場した偉大なデザイナー、ハンス・J・ウェグナーの家具や、フィン・ユールのヴィンテージ家具もお取り扱い可能。

コロナ禍が落ち着き、出社を奨励する企業が増加している今、企業とともに歴史を刻んでいけるような”本当によい家具”の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

取材・文:大野 健太