提供:カリモク家具 / Karimoku New Standard (KNS) Photo: Norio Kidera
SDGsが広く叫ばれ、オフィス家具にもサスティナビリティが求められる時代になりました。
そこで、ソーシャルインテリアではウッドマイレージと日本の森を守るという2つの観点からオフィス家具の材料として”国産材”に注目。
実際に家具製造に国産材を用いて、環境や産業に対してサスティナブルな取り組みを進めている3社のメーカーに取材を行いました。
カリモク家具、Time & Style、飛騨産業。この3社から国産材の歴史や取り組みを伺う中で、今まで知られてこなかった日本の森林や林業が抱える課題も浮き彫りになります。
オフィス家具に国産材の製品を取り入れることで、日本の自然や地域産業にどのように還元できるかを紹介していきます。
目次
サスティナブルな家具の材料とは?
オフィス構築では、企業の環境配慮をアピールするためにFSC森林認証マークを取得した木材を使用した家具が人気があります。
FSCとは管理された森林から生産された林産物に与えられる認証です。欧米を中心に普及が広がっている制度で、海外の家具製品には多く用いられていますが日本国内では一部のメーカーで認証取得がはじまっているのが現状です。
さらに、身近に手に入るサスティナブルな製品が求められる中で、”国産材”というキーワードに注目が集まっています。
まだまだ知られていない国産材とはどんな木材で、どんな観点で環境に配慮していると言えるのかを見ていきましょう。
サスティナブルな国産材という選択
日本は国土の67%を森林が占めている、森林大国です。特に北海道は面積の7割以上を森林が占めているなど、日本の北部にはたくさんの木があります。※1
これらの日本に自生している木を、家具や建物の材料として切り出して板に加工したものを国産材と呼んでいます。
日本はこれだけ多くの森林を抱えるにも関わらず、バブル期の急激な需要増に応えるために海外から安価な木材が大量に輸入され、日本の木材が使われない期間が長くありました。
Time & Styleの吉田さんは当時の状況を「中国やロシアから、太くて立派な丸太が簡単に安く手に入っていた」と振り返ります。
加工が難しい国産材よりも、太くて真っ直ぐな製品化しやすい海外木材を大量に輸入し続けたことで、日本の森林産業や林業は、森林における技術革新や技術開発の導入が遅れていきます。
その結果、日本の森林産業そのものの発展も諸外国に遅れをとることになり、日本が長らく森林を守り続けて来た歴史に空白を作ることになってしまいました。
しかし、サスティナブルな製品への注目の高まりや、パンデミック後のウッドショックと呼ばれる海外資材の高騰といった影響を受けて、今、日本の国産材を見直す動きが活発になっています。
日本のウッドマイレージは欧州の20倍以上
木材を運搬する際の環境負荷を示す「ウッドマイレージ」という指標があります。これは木材を輸送する量と距離によってもたらされる環境リスクの高さを数値化したものです。
国内で使う木材の殆どを海外から輸入している日本では、ウッドマイレージはアメリカの5倍、ドイツの20倍以上という高い数値となっています。※2
木材そのものは環境負荷の低い素材であるはずなのに、わざわざ外国から長い距離をかけて輸送することで化石燃料を使いCO2を排出している現実があります。
このことからも日本で採れる国産材を使うことが、ウッドマイレージを減らすことにつながり、環境への配慮をより進めることができるでしょう。
国産材が使われていない理由
日本にすでにある森林を活用した国産材は、輸送コストが抑えられたり地域の産業を活性化したりとメリットがあるのに、なぜ今まで使われてこなかったのでしょうか。
カリモク家具の三輪さんは国産材と日々向き合う中で「国産材は生産量の見通しが立ちにくい上に、節があったり曲がっていたりと、製材にするための手間がかかる。安定して生産するための商品化がすごく難しい」と言います。
日本には大きく分けて広葉樹と針葉樹という2種類の樹木があり、それぞれに活用方法が異なります。
森林の半数を占める針葉樹は杉やヒノキといった建築資材に使われる材料です。
そして、4割を占める広葉樹は家具に使うこともできるにも関わらず、その殆どが紙パルプや燃料として使われているのが現状です。※3
国産材の普及が遅れている理由は日本の広葉樹は曲がりや二股が多く、安価で大量にきれいな木材が簡単に手に入る海外材と比べて、国産材は手間がかかるという問題があるからです。
それでも日本で消費するオフィス家具に国産材を使うことは、日本の森林や林業にとってプラスになることは確かです。
そこで、実際に国産材を様々な工夫で製品化につなげている3社の取り組みを紹介します。
事例1:いち早く国産材に目をつけた「カリモク家具」
◯お話を聞いた人
カリモクグループ
知多カリモク株式会社 三輪 義保さん
カリモク皆栄株式会社 中原 稔さん
カリモク家具は80年以上の歴史を持つ日本の木製家具メーカーです。木工所として創業し、1950年代から木製家具をつくり続けています。
古くから国産材を扱ってきた経緯がありながらも、紆余曲折し、今再び国産材へ注力する理由について、三輪さんは次のように言います。
”昔は国内でも直径の大きい木が手に入っていたが、国産の立派な木材が手に入りにくくなり、中国やロシアの輸入材を使用した時期もあります。しかし、カリモクは木材の産地に近いところに拠点を設けているのだから、工夫して国産材を使っていかなければいけない、という考えに至りました。”
カリモク家具が国産材を使うために取り組んだ実例を見ていきましょう。
難ある国産材を加工で解決
日本で採れる木材には広葉樹と針葉樹がありますが、家具には硬くて強度がある広葉樹が適していると言われています。
しかし国産の広葉樹は幹が細かったり、曲がりや二股になっていたりと、そのままでは家具用の木材にすることが難しいため、安価な紙パルプやバイオマス燃料の材料にされてきました。
カリモク家具では今まで使われてこなかった国産材を「未利用材」と位置づけ、木材の適正な取り引きを進め、衰退しつつある国内の林業を活性化させたいと、2000年頃から未利用材の活用法を模索し始めます。
木製家具メーカーとして蓄積した技術を用いて、幅が狭い国産材をつなぎ合わせた小巾はぎ板やフィンガージョイント材の表面にひき板を接着した、無垢に近い見栄えの木材を開発。
これらの取り組みから、今まで敬遠されていた節があったり幅が狭いはぎ板も、デザインとして見せる工夫をすることで、未利用材を家具の材料として活用することに成功しました。
さらに、コロナ禍による海外資材の高騰もあり、国産材が品質と価格の面から納得度の高い素材へと変わり、日本国内でも他メーカーが追随するかたちで国産材の利用が広がってきています。
国産材が高付加価値になるブランドをつくる
国産の未利用材を製品化するにあたって中原さんは「小幅のはぎあわせた板や節のある未利用材を使ったプロダクトは市場価値が低く見られていたので、どうにか付加価値のある製品にする必要があった」と回想します。
世界中で活躍する著名なデザイナーと手を組み、国産材の小幅はぎ板や節といった風合いも、素材の魅力として活かした家具ブランドとして、2009年に「KNS(カリモク ニュー スタンダード)」を設立。
さらに石巻工房 by karimokuやMASなど、国産材に特化したブランドを次々と発表。
未利用材をデザインのチカラで感度の高い上質な家具に仕上げたこれらのブランドの製品は、世界各地の展示会で高い評価を得たり、名だたるデザインのアワードを受賞しています。
価値が低いとされてきた国産の未利用材に付加価値をつけて製品化し、適正な価格で市場で取り引きすることで、国産材の利用促進や日本の林業をサポートする取り組みへとつながっています。
事例2:森と木に熱意を持って向き合う「Time & Style 」
◯お話を聞いた人
株式会社 プレステージジャパン 専務取締役
Time & Style ディレクター
吉田 安志さん
重厚な質感と洗練されたデザインで、プレミアムなインテリアブランドとして名高いTime & Style。
ひと目でわかる高品質な家具を展開していますが、以前は良質な木材を求めて材料の8割を欧米から輸入していたそう。
しかし、専務取締役の吉田さんがものづくりの現場に携わり始めると、「輸入していた木材はナラ、ブナ、アッシュ、タモ、ウォールナットなど。殆どが日本でも手に入る材料なのに、なぜ輸入しているんだろう?」と疑問を感じ始めたと言います。
森林を管理するところから携わる
ウッドマイレージと呼ばれる木材輸送時の環境負荷を考えた時に、日本で消費する製品の材料を日本で仕入れることが、最も環境リスクが低くなるとされています。
しかし、多くの国内家具メーカーが海外から木材を輸入し、日本で製造して「Made in Japan」として国内だけでなく海外にも輸出しているのが現状。
海外から石油燃料を使って木を輸送して、製品化した木製家具をCO2を排出しながらまた運んで、というサイクルに疑問を持った吉田さんは、ものづくりや材料の調達をどうすべきかを考え始めます。
まず、自社で扱う木材を整理すると中国やロシアから輸入された、太くて立派な木材が多くを占めていました。しかし、これらの国は以前から違法伐採や絶滅危惧種の動物が住む森を壊すといった、環境面のリスクが取り沙汰されている地域でもあります。
さらに、自社工場を設立する北海道は日本の森林の1/4を抱え、周囲に木がたくさんあります。
それにも関わらず、林業の人手不足や国有林の放置といった問題を抱えていて、森があっても林業化されていないのが現状でした。
吉田さんは製品の材料にきちんとしたトレーサビリティを確保するには、管理者の顔が見える森から丸太を仕入れて林業を支援しながら、製材、加工、製品化まで自社で行う必要があると考えました。
そこで北海道大学の演習林を皮切りに、日本全国にある森林組合とパートナーシップを結んで、地域の国産材を使ったプロダクトの製品化を進めています。
製造工程のゼロから手掛けることで課題をクリアする
家具メーカーでは伐採された木を板状に加工した製材済みの材料を仕入れることが一般的ですが、国産材の利用が進んでいない理由の一つに、製材業者が細くて曲がった木や二股に枝分かれした材料を加工すると、全体の生産効率が下がってしまうことが挙げられます。
製材として市場に出なければ、国内メーカーは材料として使えないという悪循環があったのです。
吉田さんは国産材が抱える課題を肌で感じ、「北海道の森で高く積み上げられた丸太を見た時に、これが全て紙パルプや燃料などの安価な製品に変えられてしまうのか」と驚き、市場価値の低かった国産材を家具に使う仕組みづくりに着手。
2008年に北海道東川町で自社工場を立ち上げると、製材から製品化までの工程を自社で完結できるようになります。森林のオーナーから直接、丸太を仕入れることで品質と価格を安定させながら、森林経営にも長期的に関わることを実現しています。
吉田さんは「初めて仕入れた丸太を手にして年輪を数えたら、ゆうに100年を超えていました。紙や燃料にして一瞬で消費されるよりも、家具として再び長く愛される製品に変えてあげたい」と、当時の想いを大切にしながら、今も国産材が適正に使われるための取り組みを進めています。
事例3:「飛騨産業」の新技術が放置林を救う
◯お話を聞いた人
飛騨産業株式会社
直販事業部 課長 寺本 壮太郎さん
100年以上の歴史を誇る飛騨産業は、ブナの曲木家具のメーカーとして創業。現在でも木製家具を中心としたプロダクトを展開しています。
創業当時は飛騨地方に豊富にあったブナを利用していましたが、高度成長期以降は輸入材を多用するようになり、現在では国産材の割合は15%ほどとのこと。
輸入材のコスト高や資源の減少といったリスクが顕在化し、20年ほど前から飛騨産業でも国産材に目を向けるようになります。
そして、森が抱える課題を解決するための素材として、杉にたどり着きます。
杉を圧縮して使用量と強度を両立
飛騨産業が着目したのは家具に不向きとされる針葉樹である”杉”。
杉は戦後の政策によって日本の森林に多く植えられましたが、安価な外国材により国内の林業が成り立たなくなり、現在では放置林となって花粉症の原因になったり、森の荒廃といった悪影響が出ています。
これだけたくさんの森林が放置されている現状がありながら、日本の木材自給率は4割程度に留まっています。※4
そこで飛騨産業は国産材を育てて使い、森を循環させるために、国内でいち早く杉を使った家具製品の開発を始めます。
杉をはじめとする針葉樹は軽くて柔らかく、木目が美しいことから住宅などの建材として使われてきました。しかし、それらの特徴は強度や耐久性が求められる家具には不向きというデメリットがありました。
そこで、木工で培った曲げ木の技術を応用して、杉材を圧縮させることに成功。椅子のような高い負荷がかかる製品にも、杉材を使用できるようになりました。
さらに圧縮前と比べて50%程度にまで嵩を減らすことで、森で放置されている杉の木の消費量も増やすことができています。
国産材を枝葉まで余すところなく活用
飛騨産業は森林の再生を促すために杉の圧縮技術に加えて、木を活かしきる取り組みを積極的に進めています。
木材圧縮技術から生まれたアロマオイル
家具にするために製材された丸太には枝や葉っぱといった廃棄される部分が出てしまいます。
そこで、これらの端材と呼ばれる木材をプレスして樹液を絞り出して、エッセンシャルオイルを抽出。森林の香りがダイレクトに感じられるアロマオイルとして販売されています。
家具に使えない木材や日光を入れるために枝打ちされた枝葉も森の恵みと捉えて、すみずみまで使い切って製品化しています。
森を守るための間伐材をそのまま製品に
森林を適切に管理するためには木を間引く(木と木の間を広げる)必要があります。そうすることで、地表まで日光が届いて、木材となる木がすくすくと育つのです。
間引きされた間伐材は幹が細く家具への加工には不向きですが、飛騨産業では間伐材の特性を逆手に取って、幹そのままを活かした「梢照明」として展開しています。
飛騨や北軽井沢などの山に自生しているコナラ、サクラ、ホオ、カエデといった木々を、曲がりや枝分かれといった表情をそのままに、スペースを明るく照らす照明にして商品化。
豊かな森を育むために必要な間伐や枝打ちといった森の手入れを支援し、素材を極力無駄にせず、活かしきっています。
欠点とされた節を個性として魅せる家具
木材に見られる茶色の丸い模様は、木だった時に枝があった名残りですが、家具業界では節は見た目が良くないと敬遠されてきました。
節があることで丸太から家具に使われるのは3割程度となり、廃棄される端材も多くなってしまいます。また、以前は節=安価なパイン材というイメージがあり、高級な家具ではあまり使われていませんでした。
そこで、シンプルなデザインに節の表情が映える高級家具として「森のことば」シリーズを開発した所、飛騨産業の大ヒット商品に。今後、国産材でも展開が予定されています。
家具業界に浸透していた”節=家具に使えない”という概念を覆し、難のある木材とされてきた素材も活用してビジネスにつなげる取り組みは、国産材をより持続可能な素材へと進化させてくれるでしょう。
国産材はサスティナブルな家具のキーワード
ここまで国産材の特徴から日本の林業が抱える課題といった背景に加えて、日本国内で国産材を使った製品の開発を手掛ける3社の取り組みを紹介してきました。
現在の国産材は安価な海外材によって日本の木材が売れなくなり、林業が衰退し後継者も減っていくという負のスパイラルにあります。
この問題にいち早く気付いた家具メーカーが独自の技術を開発したり、ものづくりの仕組みを工夫することで、国産材の製品化がはじまっています。
認証材と呼ばれる環境負荷の低い材料で製造されたオフィス家具も選択肢のひとつですが、日本のオフィスで使用するインテリアなら、輸送時に排出されるCO2が少なく、国内の森林や産業をサポートできる国産材もサスティナブルな選択と言えます。
ソーシャルインテリアではCSRやSDGsへの取り組みに積極的な企業さまへ、国産材を用いたオフィス家具の提案も行っていますので、お気軽にお問い合わせください。
<参考>
※1:都道府県別森林率・人工林率(平成29年)|林野庁HP
森林生態系のタイプ|林野庁