ペーパーレス化とは?企業が取り組むメリット・手順・注意点を解説

2022年の電子帳簿保存法の改定以降、オフィスではペーパーレス化が急速に進んでいます。2024年1月には請求書の電子化が完全義務化*されました。

しかし、ペーパーレス化の手順を理解せずに進めてしまうと、機密データの損失など甚大な損害につながります。

本記事では、オフィスにおけるペーパーレス化の進め方を4ステップでまとめました。自社の課題に合わせて進められるように、ペーパーレス化のメリット・効果と注意点も併せて解説します。

*参考:電子帳簿等保存制度特設サイト|国税庁

ペーパーレス化とは

ペーパーレス化とは、紙媒体の文書・資料をなくして電子化し、業務効率を高めたりコスト削減をはかる取り組みを指します。「ペーパレス」とも表記されます。

ビジネスシーン以外でもペーパーレス化は注目されており、紙の書籍の電子化や、チケットやクーポンの電子化、行政の書類手続きのオンライン対応化など、幅広く取り組みが進んでいます。

ペーパーレス化が必要とされる背景

ペーパーレス化が必要とされる背景には、2019年より施行された働き方改革や、2021年に発足したデジタル庁が大きな足掛かりとなっています。日本のデジタル社会実現のために、国や地方公共団体、民間団体が一丸となり、ペーパーレス化を進めています。

また、2015年の国連サミットで掲げられた世界共通のテーマであるSDGs(持続可能な開発目標)の視点でも、ペーパーレス化は重要視されています。無駄な紙廃棄物をなくし、森林伐採を抑制することで、環境保全に貢献することが求められています。

これらの背景から、政府はペーパーレス化を推進しており、今までは紙で保存されていた書類を電子化するための電子帳簿保存法やe-文書法が制定されたり、DX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩としてのペーパーレス化が推奨されています。

企業がペーパーレス化を進める効果・メリット

企業がオフィスのペーパーレス化を進めると、自社の課題解消に役立ちます。

たとえば、オフィスのペーパーレス化がもたらすメリット・効果は以下の通りです。

  • オフィスを有効活用できる
  • 業務を効率化できる
  • 運用・管理コストを削減できる
  • 情報セキュリティを強化できる
  • BCP(事業継続計画)対策になる
  • 多様な働き方に対応できる

上記6つのメリット・効果について詳しく解説します。

1.オフィスを有効活用できる

無駄な書類・資料を電子化すると保管スペースが不要になり、オフィスを広く有効活用できます。

場合によっては、資料やファイルを収納しているキャビネットを一掃して、コンパクトなオフィスへ移動することも可能です。省スペース化に加え、賃金やランニングコストの削減も見込めるのはペーパーレス化の大きなメリットでしょう。

2.業務を効率化できる

ペーパーレス化を進めると、煩雑なワークフローを改善して業務効率化が期待できます。紙の書類を用いて社内回覧し稟議を待っていると、どこで書類が止まっているか把握しづらいものです。また、紙の書類の運用だと、郵送や受け取り対応のために出社が必要になり、多くの時間と手間がかかります。

契約書や社内稟議の書類回覧を電子化すれば、社員が離れていても対応可能。無駄な作業時間を減らすためにもペーパーレス化は重要です。

3.運用・管理コストを削減できる

ペーパーレス化で業務効率をアップさせてコスト削減につながることはもちろんですが、印刷費や郵送費用を減らせることもコスト削減につながります。社員が多ければ多いほど、日々の印刷物の費用がかさみ、印刷機の管理費用も無視できません。

書類を保存するファイル、格納先となるキャビネットや本棚など、細々したものをなくせば大きなコスト削減に繋がります。

4.情報セキュリティを強化できる

ペーパーレス化は、ビジネス情報を守り、セキュリティを強化することにも寄与します。紙の資料だと、ファイルに入れて鍵付きキャビネットに保存するなどの方法でセキュリティ対策を講じますが、どうしても手間がかかり持ち出されるリスクもあります。

一方、ペーパーレス化をして電子データの運用に切り替えれば、オンライン上でパスワードをかけたり、システム上で閲覧制限を設定したりできます。複数のパスワードやセキュリティ施策を講じれば、より安全な運用ができるようになるでしょう。

5.BCP(事業継続計画)対策になる

ペーパーレス化は書類の破損・紛失の心配がないため、BCP対策(事業継続計画)にも効果的です。

BCP対策とは、自然災害やテロ事件などの緊急時に被害を最小限に抑えるための対策で、2011年の東日本大震災以降から重要性が高まっています。

ペーパーレス化によりオンライン上で管理できるため、オフィスが被災してもデータは消えません。出勤せずにリモートワークで対応できることから早期復旧も見込めます。

6.多様な働き方に対応できる

ペーパーレス化によりデジタルのワークフローが確立すれば、時間・場所にとらわれない多様な働き方が実現します。

従業員同士がオンライン上でデータや連絡事項を共有できるため、個人のペースで自由にアクセスして業務を進めることが可能です。

さらに、プロジェクト管理ツールやコミュニケーションツールを活用すれば、リアルタイムでチームの進捗がわかり業務を効率良く遂行できます。書類確認のためだけに出勤する必要もありません。

ペーパーレス化するときの課題

オフィスでペーパーレス化すると、以下4つの課題が生じます。

  • 紙よりも視認性が下がる
  • 初期コストがかかる
  • システム障害の影響を受ける
  • 従業員にITスキルが求められる

ペーパーレス化は効率化を図れる一方で、導入には初期コストや人材の確保が必要です。さらに不便を感じる場合もあるため、進め方と併せて課題解決策も考えましょう。

1.紙よりも視認性が下がる

ペーパーレス化されたデータは紙の書類より視認性に劣ります。

たとえば、紙の資料はデスクに広げれば複数人で確認できますが、デバイスのデータはサイズが小さいため1枚ずつ拡大して確認しなければなりません。

課題解決策として、会議で共有しやすいように大型プロジェクターを設置するのも一手です。個人のパソコンでは目の疲れを軽減するために、ディスプレイの明るさを下げる・自然光に近い暖色の色温度に設定するなどの工夫が効果的です。

2.初期コストがかかる

オフィスのペーパーレス化はランニングコストが抑えられる一方で、導入時は金銭的・時間的な初期コストがかかります。

電子化にはクラウドツールをはじめ、ファイル共有サービスやチャットツールの導入が欠かせません。加えて、セキュリティ対策やバックアップなどのメンテナンス、従業員分のパソコンを用意するなど多方面でコストが発生します。

必要な機能を把握してクラウドサービスを選ぶ、コンサルに依頼するなどの課題対策が必要です。

3.システム障害の影響を受ける

オフィスをペーパーレス化すると、自然災害や機器の経年劣化が原因でシステム障害が起こるリスクがあります。

システム障害の影響が起こると業務が滞るだけでなく、顧客管理や注文情報に対応できないため顧客満足度の低下につながる恐れもあるでしょう。また、重要データが損失すれば企業の信頼性にも影響を及ぼします。

非常時に早急に対応できるリカバリー体制の構築や、バックアップの強化に努めるなど対策を講じましょう。

4.従業員にITスキルが求められる

オフィスのペーパーレス化には、従業員にITスキルが求められるというソフト面の課題もあります。デジタルに苦手意識を感じる年代や普段の業務でデバイスを使わない従業員は、慣れるまで時間がかかるでしょう。

ファイル閲覧・編集などの基本操作から教える必要があれば、その分教育に関わる人材リソースと時間を確保しなければなりません。従業員のITスキルに不安がある場合はマニュアルを作っておくなど早めに対策しましょう。

ペーパーレス化を進める手順

手順が曖昧な状態でペーパーレス化を進めると、データの保存先が分からず業務に支障をきたす恐れがあります。

ペーパーレス化は以下4ステップの進め方を押さえましょう。

  1. 現状の課題を洗い出す
  2. 書類を分類して管理基準を決める
  3. クラウドツールを選定する
  4. 運用ルール・達成期限を決めて社員に周知する

一度に着手せず段階的に進めることが重要です。

1.現状の課題を洗い出す

ペーパーレス化では、自社のコンセプトやビジョンをもとに現状の課題を洗い出すことから始めます。従業員の声を吸い上げて課題に目を向けないと、ミスマッチが生じて現状より生産性が落ちる恐れがあります。

「オフィスが狭いため保管スペースを縮小したい」「社内全体で情報共有しやすい環境を作りたい」などの課題が分かれば、導入するサービスや必要コストなどの施策を明確化することが可能です。

また、リモートワークやフレックス制などの多様な働き方にを望む声に対応できれば、貢献意欲が高まり定着率向上も期待できます。

2.書類を分類して管理基準を決める

書類のなかには紙で残したほうが良いものもあるため、進め方としてペーパーレス化の管理基準を決めることが重要です。

たとえば、紙の書類上に署名が必要なものは電子化せずに残しましょう。紙で残す場合は、防災・セキュリティ設備が完備された外部倉庫を利用する方法があります。電子化する場合は「個人書類」「共有書類」「機密書類」に分け、ファイル名や形式を工夫しましょう。

個人書類のファイル名には、社員番号や氏名などの一意識別子を使用します。共有書類はどの部署の従業員が見てもわかるように、プロジェクト名・部署名を付けると効率良く探せるのでおすすめです。機密書類は、特にファイル暗号化やアクセス権限を狭めるなどのセキュリティ対策が求められます。

3.クラウドツールを選定する

クラウドツールを導入すれば自社でソフトウェアを持たずにペーパーレス化できます。しかし、サービスは多岐に渡るため選定が必要です。

サービス・ツール特徴
ストレージサービスファイルを保管・管理するサービスGoogle Drive・Dropboxなど
勤怠管理ツール出退勤の打刻・勤務状況の管理ができるツールジョブカン勤怠管理・タッチオンタイムなど
電子決裁ツール決裁処理にかかる承認フローが完結できるツール承認TIME・Gluegent Flowなど
情報共有ツール文書・画像データ・タスク・スケジュールなどを共有できるツールNotion・Slackなど
電子署名ツール デジタル文書に署名できるツールDocuSign・Adobe Signなど

4.運用ルール

ペーパーレス化直後に混乱しないように、運用ルールを決めておきましょう。

運用ルールは従業員の意見を参考に、「個人書類」「共有書類」「機密書類」の管理基準に基づいた書類管理を目指します。進め方として、電子ファイルの格納先・アクセス権限の範囲の・共有ツールの利用上のルールを決めましょう。紙書類をファイリングする担当者の選定も必要です。

運用にあたり教育が必要な場合もあるため、達成期限を決めて社員に周知しなければいけません。また、導入後も継続して運用ルールを周知することで、より効率的で適切な運用が行えます。

紙の書類を電子化する方法

ペーパーレス化するには、紙の書類をパソコンで操作できるようにファイル形式に変換しなければなりません。

書類を電子化する方法は以下の5パターンです。

  • コピー機・複合機でスキャンする
  • 業務用スキャナーでスキャンする
  • カメラで撮影する
  • 外部サービスを利用する

それぞれの特徴を知り、自社に適した方法を選定しましょう。

1.コピー機・複合機でスキャンする

最も一般的なのがコピー機・複合機でスキャンする方法です。

オフィスのコピー機・複合機に搭載されているスキャン機能を利用して、個人または設定した送信先のフォルダへ取り込みます。電子化するための機器を新たに購入する必要がなく、大きなコストがかかりません。

ただし、スキャン中はコピー機で他の操作ができないため、作業する際はタイミングを考慮する必要があります。電子化したい書類が少量で済むオフィスに有用です。

2.業務用スキャナーでスキャンする

オフィスで電子化したい場合は、スキャン専用の業務用スキャナーを利用する方法もあります。

搭載されている自動原稿送り装置機能(ADF)を使い、一度に複数の書類を電子化することが可能です。原稿をセットするだけで自動で原稿を読み取るため業務の合間に進められます。また、スキャン中でも他の操作が可能です。

導入コストと手間はかかりますが、オフィス用コピー機・複合機と比較すると通常業務への影響を抑えられます。

3.カメラで撮影する

コストを抑えたい場合は、会社のスマートフォンやタブレットのカメラで書類を撮影するのも手です。コストがかからず個人デスクで作業できるため分担して進められます。

紙の文書を文字データに変換する「OCR機能」のアプリを使えば、読み取ったデータをキーワードやファイル名で検索できるため、ペーパーレス化した後の作業効率も上がるでしょう。

一方で、解像度が低く撮影者によって画像の精度にバラつきが出る点に注意が必要です。

4.外部サービスを利用する

時間と手間をかけたくない場合は、外部サービスを利用しましょう。スキャンしたい書類を代行業者へ送るだけでデータに変換してもらえます。

社内リソースを割くことなく高精度に電子化できるためコストはかかりますが、膨大な書類を保有するオフィスや人手が確保できないオフィスにとって心強いでしょう。

なお、業者によって対応可能な枚数・書類サイズなどは異なるため、依頼前にペーパーレス化したい書類を把握しておきましょう。

ペーパーレス化を進めるときの注意点

オフィスのペーパーレス化とは、単に紙の書類を電子化するだけではありません。

特に以下の3つのようなソフト面の対策に注意が必要です。

  • 一部の書類は法律に則って保管する必要がある
  • 社員のITリテラシーを高める
  • 部分的な導入からスタートする

進め方を誤ると法律に抵触する危険があるため、把握しておきましょう。

1.一部の書類は法律に則って保管する必要がある

オフィスの書類をペーパーレス化する際は、法律にも目を通さなければなりません。

ペーパーレス化の進め方で確認するべき法律は以下2つです。

  • e-文書法
  • 電子帳簿保存法

「e-文書法」とは、保管義務がある文書の電子化を認める法律です。紙文書の電子保存と電子管理に必要な手続きが定められており、たとえば帳簿・有価証券報告書・建築図面などの電子保存・管理が記されています。

「電子帳簿保存法」は国税書類の電子化に関する法律です。たとえば、「保存は200dpi以上の解像度と赤・緑・青256階調以上のカラー画像によるスキャンが必要」などの規定があります。また、2024年に入り電子取引によるデータの電子保存が完全義務化されました。

誤った進め方でペーパーレス化しないよう、電子化が容認されている書類や電子管理の規定を各法律で確認しておきましょう。

※参考「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」の概要|厚生労働省

電子帳簿保存法の概要|国税庁

2.社員のITリテラシーを高める

ハード面のペーパーレス化が進んでも、社員のITリテラシーが追いついていなければ適切に機能しません。生産性の低下はもちろん、情報漏えいやウイルス感染の危険を招く恐れがあります。

デジタルツールに不慣れな従業員が多いオフィスの進め方として、デジタルツールの操作マニュアルを作成するなど業務負担へ配慮しましょう。

また、インターネットの脅威やルールを共有するために研修を行うことも、リスク回避に効果的な進め方です。

3.部分的な導入からスタートする

オフィスのペーパーレス化を一度に進めると、通常業務に支障をきたす可能性があるため、進め方として部分的な導入から開始します。

一度に実施すると従業員に負担がかかり、生産性の低下を招きます。また、セキュリティの脆弱性やシステム障害などの予期せぬ問題が発生した際にリカバリーが遅れると、社内外の信頼を損なう事態になりかねません。

準備期間に余裕を持ち、部署・プロジェクトごとに計画書を作成して段階的に進めましょう。

ペーパーレス化はマスト!上手に進めてオフィスを有効活用しよう

ペーパーレス化は、環境保全の観点やデジタル国家を目指すためにも、全企業が取り組むべきテーマです。ペーパーレス化を進めれば、無駄な紙資源をなくしてコスト削減ができ、業務効率化ができるメリットがあります。オフィスを広く有効活用できたり、多様な働き方を取り入れてオフィス移転も検討できるかもしれません。

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