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PROJECTフォースタートアップス株式会社
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SCALE2395㎡
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CATEGORYオフィス移転
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YEAR2024
未来から逆算したオフィスの形
フォースタートアップス株式会社
- SCALE
- 2395㎡
- CATEGORY
- オフィス移転
- YEAR
- 2024
- MEMBER
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Project Management:Ayaka Takaku / Shinri Suzuki / Masahiko Iida
Construction Management:Shinri Suzuki
Sales:Chika Katsura / Yuhei Yagi
Design Direction:Keiichi katayama(cozzi.inc)/ Takeshi Shima(moss.Inc.)
Project Merchandise:Takuya Oura
Photographer:Koji Fujii(TOREAL Inc.)
INTERVIEW
インタビューコーポレート本部 経営管理部
Branding/PRグループ
Experience Designer/Brand
石橋 宗親 様
コーポレート本部 経営管理部
総務グループ
マネージャー
原 隆通 様
急成長の組織を支える、新たなワークプレイスへ
フォースタートアップスは、2016年に設立し、2020年に東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場しました。その後もお客様や市場からのニーズにお応えするため、事業も組織も拡大し続けています。しかし、その成長ゆえに、これまでのオフィス環境に課題を感じるようになりました。
まず、最も大きな課題は人数に対する空間のキャパシティ不足でした。
弊社は事業推進上重要となるタイムリーな情報連携や企業文化の醸成、また社員育成の観点からオフィス内におけるコミュニケーションを重視しています。しかし、移転前のオフィスでは、収容人数の限界に近い200名を超える社員が業務を行っていました。コロナ禍を経てオンライン会議が定着したものの、その後は対面での会議や面談の機会が増えていました。
また、弊社はスタートアップに特化したヘッドハンティング型人材支援サービスをコア事業としているため、毎日100名以上のヒューマンキャピタリストがスタートアップ企業やVC(ベンチャーキャピタル)との会議、キャンディデイトとの面談を行っています。そのため、移転前の半年ほどは特に会議スペースの不足が常態化して、場所を確保するための調整に工数もかかり、非効率な状況が発生していました。
さらに、社員数増加によりオフィス内が手狭になるにつれて、音に関する問題も気になるようになりました。社員の集中力の妨げにもつながりますし、仕切りのないオープン型の執務エリアにしている弊社にとっては解決すべき課題でした。
これらの課題解決や戦略的なタイミングも重なったため、新たなオフィスへの移転を決断しました。移転先は、様々な合理性を検討した結果、日本初の大規模なVC集積拠点『Tokyo Venture Capital Hub』が開設される麻布台ヒルズに決定しました。
5年先、10年先を見据えた空間を求めて
私たちのRFP(提案依頼書)は、機能要件については細かく記載しましたが、感性要件については「デザインに求めるもの」と題して以下の考え方のみを記載し、具体的なことについてはあえて細かく記載しませんでした。過去の延長線上でオフィスを構築するのではなく、5年先、10年先の未来から逆算して、私たちのブランドや文化を未来に導くような場所として、ここに一点モノをデザインしていただきたいと考えたからです。
立地や区画の素材の良さを活かし、光と風の通りが良い「抜け」のある空間創りを期待します。現代美術において「サイトスペシフィック・アート」というその場所の文脈にもとづいて制作された固有の芸術作品を示す言葉がありますが、今回のオフィスも同様に、立地や周辺環境および眺望を活かし、日の出・日の入り後の太陽の移ろいにともなう景色の変化、オフィス内で行われる日常・非日常のアクティビティにおいて社員や来訪者からどのように空間が見えるのか、体験されうるのか、使い手の立場を十分に考慮することが重要です。また、デザインにおいては、安全性、快適性、審美性、倫理性、個性を重視します。(RFPより抜粋)
難しい課題だったと思いますが、ソーシャルインテリア様はRFPに込められた私たちの想いを汲み取り、限られた時間の中で期待を超える提案をしてくださいました。
表層的なデザインではなく、コンペのオリエンテーションでお話しした私たちの構想や世界観を実現させるための「場」に対する思想や哲学を深く理解し、深層にあるミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)の原点から構築して設計してくださったことも、パートナーとして共に歩みたいと考えた大きな理由の一つ。もし、考え方の根本の部分で理解にズレが生じている場合、プロジェクトの途中で大きな問題に発展し、貴重な時間をお互いに浪費してしまう可能性もあるためです。
最初の段階で私たちの由来から将来に至るまで、その想いを深く理解していただいたため、プロジェクトの進行中に直面する様々な課題や検討事項はチームとして、お互いに意見交換をしながら、より良い形に仕上げていくことができると確信しました。
「(共に)進化の中心へ」を体現した空間
新オフィスでは、中長期的な計画にもとづく増員に対応した座席数やMTGスペースの確保、さらには業務効率化のための設備について、あらかじめ定めた予算とスケジュールの中で確実に実現することを最優先事項としました。それと同時に、他社との差別化や企業文化形成などのブランドの観点から、象徴的な空間を作り上げることも重要でした。
フォースタートアップスでは、MVVにもとづいて様々な制度の策定や意思決定がなされています。オフィスは、MVVを空間に表現して身体的に知覚しうるものに具現化するだけでなく、その運用においてもMVVを浸透させていく重要な器になると考えています。
そのため、フォースタートアップスのミッションである「(共に)進化の中心へ」を表現するため、社会課題を解決しながら未来を創造する国内外の起業家や投資家やエコシステムビルダーが私たちと共に集い、その対話や交流から新しいものが生まれることが実感できるような空間を生み出したいと考えていました。
その考えのもと、区画の中央にビル躯体の形にそってギリシア・ローマの円形建築のように人々が集う特別な場所として設計されたステージを含む開放的なオープンスペースは、まさに象徴的な空間になりました。社内行事だけでなく、起業家や投資家との勉強会やさまざまなイベントもすでに開催されており、縁を絆へと深める特別な場所になっています。
長期的な視点で考えられた柔軟性と拡張性
企業の事業戦略や社内文化は常に変化しながら発展していくものです。その変化に対応できるように、オフィスは最初に作り込みすぎないことを意識しました。
例えば、初回提案時はエントランスからオープンスペースに続く通路の中央に自社の世界観を表現する構造物が入る予定だったのですが、最終的にはそれらを設置せず、ギャラリーのような展示場所やイベント時のサブスペースとしても柔軟にアレンジできる空間として余白を持たせた設計に変更しました。
執務エリアは、壁や仕切りを設置しませんでした。また、エリアの4分の3ほどは埋め込み式のコンセントを採用し、今後のレイアウト変更にも対応できるようにしています。
拡張性については、将来的に会議室予約システムの端末を設置できるように工事段階で配線を通しておいたり、映像音響システムはハード・ソフト共に拡張可能な構成にしたりするなど、設計段階で工夫を重ねました。
なお、映像音響関連の機器が増えると操作の煩雑さだけでなく、そのわかりにくさから総務や情シスへの頻繁な問い合わせが発生しがちです。今回はiPadのアプリをデザインして、様々な機器に一切触れることなく、画面タッチだけで簡単に操作ができるようにしました。意匠と機能の調和を実現すると同時に、機器利用に関する日常のストレスや準備の工数という”見えないコスト”も大幅に削減することができました。
(写真左:iPadを設置しているカウンター、写真右:iPadのアプリ画面)
リビングプレイスとしてのオフィス
私たちの最初のオフィスは、レジデンスマンションの一室ということもあり、ホームファニチャー中心の落ち着いた居心地の良い空間でした。その温かい雰囲気は、目指すビジョンに向かって日々切磋琢磨する中で、時にお互いに厳しいことを言い合いながらも、共同体としての親密さが感じられる場所でした。その良い部分は今回のオフィスにも継承されています。
また、私(石橋様)自身、学生時代からインテリアや建築に強い興味を持っていたことや、新卒入社した株式会社中西元男事務所<PAOS>で働いていた頃、同社代表が経営する株式会社ワールド・グッドデザインで世界16カ国26デザイン機関の情報アーカイブ事業の編集出版を担当し、海外の素晴らしいデザインやインテリアに触れてきた経験から、海外のオフィスに比べて画一的な日本のオフィス環境に対して問題意識を感じていました。
仮に、フル出社を前提とした内勤社員の場合、平日にオフィスにいる時間は、人によってばらつきはありますが、起きている時間の約半分であり、1年間で約2,000時間になります。5年間では約1万時間、日数換算で約417日にもなります。さらに社員数を掛けて考えるとその日数は膨大です。会社に集う多くの人の人生で限りある時間の中で、少なくない時間を費やす場所が、働きやすく、快適であることはとても大切なことだと思います。
オフィスは「場」であり「コミュニティ」でもあります。一人ひとりの社員にとっての自己実現や社会との関わりにおいても重要な場であり、”心のホーム”として、Living(生きること)と地続きなコミュニティでもありたいと考えています。そのため、「ワークプレイスは、リビングプレイスでもある」という考え方で弊社のオフィスは創られてきました。
そういった背景もあり、新オフィスにおいても、家具を単なる設備のように考えるのではなく、自社の独自性や哲学を表現し、ブランドや文化を形成する重要な要素として捉えていたのです。
そのため、家具は投資対効果が最大化されるように適材適所でブランドを選定するだけでなく、デザインや素材にも細部までこだわり、生地や色や仕上げを細かく比較検討しながら選定をしました。また、社員のパフォーマンスを最大限に引き出すため、シーンに合わせた家具選びにもこだわっています。
たとえば、社員用のチェアはデザインと機能性のバランスに優れたハーマンミラーの「ヴェラスチェア」を採用し、長時間デスクワークをすることが多いエンジニアやデザイナーには、より高い機能性を兼ね備えたハーマンミラーの「アーロンチェア」やオカムラの「バロンチェア」を選定しています。会議室は全体的にヴィトラのチェアで揃えていますが、コンパクトな会議室では、狭さを感じさせずにより親密にリラックスしてアイデアを出し合えるよう、マルニ木工の「EN」シリーズの家具や「HIROSHIMAチェア」など木製家具を取り入れた、温かみのある空間を設計しました。
単に高機能な家具を導入するだけでなく、自然素材やハンドクラフトによる柔らかな質感や滑らかな触り心地をもたらす木製家具を導入すること、本物に触れることで、人間が本来もっている身体感覚のセンサーにはたらきかけ、価値を感じる感性や創造性を刺激することも大切です。知覚、感性、創造性は、AIの時代において、人間にとってますます重要なものになるという考えも背景にあります。
家具のほとんどは、ソーシャルインテリア様のコーディネーターと一緒にメーカーのショールームに足を運び、社員や来社するお客様のことを考えながら実際に自分自身でも試したうえで決めています。家具一つひとつにこだわりを持って選んでいると、メーカーの方も『この人は家具のことを大切に考えてくれているんだな』と感じてくださり、素材や製品の背景など深い部分まで説明してくださいます。
今回のような大規模な案件となると、メーカーのご担当者は移転プロジェクトの全体像や詳細な内容までは知らないこともあるので、直接足を運んでコミュニケーションを取ることが大切なんです。私たちのプロジェクトについて熱意を持ってお伝えし、共感していただけることで、一緒に理想のオフィス空間を作り上げていくことができます。
最終的には、ソーシャルインテリア様の豊富なネットワークや知見のおかげで、適正なコストで長く愛用できる家具を揃えることができました。
オフィスとともに変革していく企業と社員
移転後、社員の働き方やオフィスの利用状況に変化が見られました。まず、全社ミーティングなど全員が集まるイベントでは、映像音響ともに充実した一つの空間で実施することで、以前よりも一体感が高まりました。社内表彰では全員からの拍手とともに賞賛を受けて涙する社員もいるぐらいです。
また、「KEEP:”CLEAN, SMART, PRIDE”」のスローガンのもと、社員一人ひとりが責任を持った行動を意識するようになりました。具体的には「オフィスを清潔に保つ」「会議室はゲストのための空間であることを意識して使用する」「オフィスにふさわしいふるまいを心掛ける」といったことが挙げられます。
以前のオフィスでは、新卒社員の増加や、中途入社社員の多様なバックグラウンドにより、オフィスの使い方にばらつきがありました。現在は移転を機にオフィスの利用ルールを明確にし、会社の”スタンダード”として、社員に共有しています。そうした取り組みもありますが、何よりも、素晴らしい空間をソーシャルインテリア様と共に創ることができたおかげで、自分たちの誇りとしてオフィスを大切にしようという意識が格段に高まったことを実感しています。
オフィス環境の変化は、社員のモチベーションアップにも良い影響を与えています。たとえば、子育て中の社員から「こんなに素敵なオフィスだったら、もっと働きたい」という声も上がっていました。
実際にオフィスに足を運んでくださったみなさまからはお褒めの言葉をいただいていますし、弊社が開催するイベントへの参加希望者も増えています。企業イメージの向上にも寄与していると感じます。
また、以前のオフィスで課題となっていた会議室不足や音の問題も、今回の移転で解消されました。とくに音に関しては、ヤマハのスピーチプライバシーシステムを導入することで、会議室内の音はより外に聞こえにくくなり、オープンで仕切りのない執務エリアでも業務の妨げになるような会話音を低減できています。
このように移転後のオフィスには満足していますが、今後アップデートしていきたい点もいくつかあります。
今回の移転では、エントランスからステージまでのエリアは、お客様をお迎えする重要な場所としてしっかり整備しました。しかし、執務エリア内のリフレッシュスペースは、予算の優先順位もあり、現状ではシンプルな造作ベンチを設置しています。今後は段階的に充実させ、社員が自然と集まり、リラックスできるような空間にしていきたいと考えています。
オフィス運用面においては、備品を常に整理整頓し、どこに何があるかがすぐに分かる状態を維持するように整備していっていますが、今後、社員が増えて事業関連の備品などが増えていった場合でも対応できるように、マニュアルを定期的に更新しながら、より良いオフィス環境を保つ努力を続けていきます。
進化するオフィス空間、新たな価値を創造
ソーシャルインテリア様には、”オフィス”の基準をさらにアップデートしてほしいと考えています。
「人にとって最も望ましい空間とは何なのか」「働く空間とは何なのか」「施設のように空間が目立って人間が脇役になるのではなく、人間が主役で環境のようによりそう空間とは何なのか」—これらの疑問や課題に対して、御社の強みを活かし、家具という人間の身体に最も近い存在を起点に考えることで、従来のオフィス構築の考え方とは別の切り口や発想でアプローチすることが可能になるのではないかと考えています。
また、これからのオフィスデザインにおいて「付加価値」という視点が重要だと、私は考えています。課題解決は実績がある会社ならあるレベルまではどこでもできると思います。一方で、付加価値は、クライアントのことを十分に理解して、移転完了時点をデザインするのでなく、クライアント企業の未来をデザインしないと生み出せないものだと思います。
空間が人の行為に影響するならば、オフィスは企業の未来に少なからず影響を与えます。単に見た目や機能性を追求するのではなく、数年後の社会や企業や事業の変化を逆算して「新たな価値を創造する起点としてのオフィス」をこれからも世の中に生み出して欲しいと願っています。
この度は、私たちのオフィス移転プロジェクトに伴走しながら細やかなサポートをしていただいたことに大変感謝しております。マニュアルの作成など運用面でもご尽力いただき、初日からスムーズに業務を開始することができました。
今後も多くの企業のオフィス移転を成功に導くパートナーとしてご活躍されることを期待しております。
